第107回
「トランプ政権の対北朝鮮政策」

  長野禮子 

 10月10日、衆院選が公示され12日間の選挙戦が始まった。安倍首相は今回の解散の最大の理由を「北朝鮮危機による国難」と位置付け、併せて憲法改正の是非を問う選挙に打って出た。北朝鮮の脅威をよそに、国会での野党の追及は安倍首相に対する「モリ・カケ問題」に終始し、国家の安全保障問題を真剣に語ることはなかった。これにより確かに安倍政権の支持率は一気に10%落ち込んだが、野党の支持率が上がった訳ではない。解散風が吹き始めると野党は「疑惑隠し解散」と批判し、安倍一強政治を打倒すると息巻いているが、「モリ・カケ問題」が政権を転覆させるほどの問題ではないことを、国民は十分に理解している。政権批判を繰り返す野党が政権を奪取した暗黒の3年3ヵ月を国民は忘れてはいない。正にこの国難にあって真剣に取り組むべき問題のプライオリティを何と心得ているのか、看板を何度も架け替え立候補する“政治家”に「国民の命を守る責任」を託せるのか。具体的な裏付けもなく有権者に心地よいことを叫べば投票してくれると本気で思っているのか、強く問いたい。特に今回の総選挙は、戦後最大の危機と言われる北朝鮮の脅威に対して、誰に、どの政党に任せるかを決める重要な選挙であることを有権者は自覚しなければならない。
 さて、今回アワー氏は、主に米国民主党の左傾化が益々進んでいること、トランプ政権の北戦略、ミサイル防衛――以上3点についてお話下さった。何れも喫緊の問題として重要である。特に北の核攻撃が日韓に及んだ場合、米国は即、核による反撃を実行するかどうかであるが、それは必ずしも核攻撃ではなく通常兵器であろうとアワー氏は語る。 
 一方、トランプ大統領は10日、陸軍で話をし、「いつでも北を攻撃する準備をする」と言った。それに対しハリス太平洋軍司令官はこれを重く受け止めたということだが、マティス国防長官、ティラーソン国務長官などは米国の先制攻撃はないとしている。
 9月18日、マティス国防長官は「ソウルを危険に晒すことなく北朝鮮の核・ミサイルを無力化する軍事オプションがある」と記者団に語った。これは米軍が既にこのことにおける軍事シミュレーションの完了を意味することだと受け止めるべきだろう。米国もこれまで長きに亘り、北朝鮮に対してアメとムチを使い分けながら非核化を導いてきたことの失敗を認めたのか、日本も「対話のための対話」は無意味だとし、日米の認識のズレはない。
 米国は日本を含む同盟国と様々な軍事訓練を展開している。もし米韓軍による対北軍事行動が起こった場合、その元になるのは2015年に策定された「作戦計画5015」というものだ(10月12日付、産経新聞)。
 例えば、北の核施設を空爆する「5026」、北の体制を転覆させ、全土を占領する「5027」、北の体制動揺を受けて軍事介入する「5029」、北の経済を疲弊させる「5030」、金正恩や指導部の暗殺計画を実行する「斬首作戦」などがそれである。また、従来は北の韓国侵攻があった場合の反撃を前提としていたものが、5015では北が核・弾道ミサイルによる軍事攻撃の兆候が確認できた場合、核兵器を含む北の核・ミサイル基地への一斉先制攻撃に出る――となった。あらゆる作戦を実行し、その上で5027計画の全面戦争へと移行するということである。
 21世紀を生きる我々は、極東アジアの安全保障におけるパワーバランスが大きく揺れ動いている“現実”をしっかり受け止め、最悪のシナリオを想定しつつ、リスクを最小限に抑える戦略を立てることであるが、これが大問題である。
 北制裁に足並みを揃えつつあるかに見える中国の動向も、決して認識を共有しているとは言い難い。22日の総選挙の結果、更に、11月のトランプ大統領の訪日、続く韓国、中国訪問はどのような結果をもたらすのか注目される。


テーマ: トランプ政権の対北朝鮮政策
講 師: ジェームスE・アワー 氏(JFSS特別顧問・米ヴァンダービルト大学名誉教授)
日 時: 平成29年10月11日(火)14:00~16:00
ø