第109回
「新しいアジア情勢の下での日台関係」

  長野禮子 

 今年(2017年)1月1日、「交流協会」を「日本台湾交流協会」と改め、「更なる関係を発展させていく」ことになった。安倍政権によって日台関係が大きく進展した証左である。
 台湾は今、日本と同様社会保障や少子高齢化の問題が散見され、国民の政府に対する眼も厳しく、蔡政権の支持率は低下している。
 日台関係を考えるに当たり、台中関係を無視することは不可欠であり、台湾人の意識も時代と共に変化して来ている。1972年のニクソンショックから45年。特に天安門事件以降の台湾人の帰属調査では、①中国人 ②台湾人 ③台湾人であると同時に中国人である―の3択では、1992年の段階では5割の台湾人が③を選択した。しかし、2015年の段階では6割の台湾人が②を選択した。更に、中国人か台湾人かの2択では、9割が台湾人であると回答した。「台湾人」としてのアイデンティティが語られる時代となったのかも知れない。
 1988年、台湾初の民撰総統である李登輝氏から、陳水扁氏、馬英九氏の3総統が登場した。李総統は、台湾海峡危機や司馬遼太郎氏との対談(台湾独立に関しても議論)などから中国から極めて危険視された人物でもある。
 李氏は司馬氏との対談で『出エジプト記』の話をされたが、恐らく台湾人は流浪の民であることを示唆したものと推察される。陳氏は「独立派」、馬氏は「統一派」である。しかし二人とも政権に就くと現実路線に転換し、陳氏は「4つのNO」(①中国からの武力行使が無い限り独立を宣言しない ②国号を変更しない ③両国論を加える憲法を改正しない ④統一か独立かの国民投票を行わない)を、馬氏は「3つの不」(①統一しない ②独立しない ③武力を使わない)、つまり現状維持を前面に出していた。 
 現在の蔡政権は、党綱領に「独立」を謳った民進党政権であり、正に中国と民進党の両方から注視され苦しい立場にあるが、所謂「一中各評」の台中コンセンサスの中で、どのように政権運営をして行くかである。中国は、蔡政権の対中政策を「不完全答案」と評し、牽制している。政権支持率が下がる中で、民進党内でも対中問題は重大なイシューであり、「事実上の独立ならば中国のレッドラインを超えない」という意見と、「事実上の独立は危険水域である」という意見で割れている。
 こうした中、蔡政権は新南向政策を打ち出し、過度の中国依存から脱するため東南アジア諸国やインドへの転向を試みており、日本との連携に期待を寄せている。新南向政策の目標となるASEAN諸国については、影響力の強い国家と対峙するため、どの国と組むかについては国内外情勢に大きく左右されるところである。
 以上、台湾や中国を始めとするアジア諸国が国力をつけてきている「新しいアジア情勢」下で日台関係を構築して行く場合、最早2国間のみの関係に留まらず、複雑な力関係を考慮し戦略的な検討が必要となろう。

テーマ: 新しいアジア情勢の下での日台関係
講 師: 谷崎 泰明 氏(日本台湾交流協会理事長・前インドネシア駐箚特命全権大使)
日 時: 平成29年11月28日(火)15:00~17:00
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