長野禮子
2014年4月、安倍内閣により「防衛装備移転三原則」が新しく制定された。これで長年の「鎖国」状態が解き放たれ、日本の防衛産業も一気に世界に羽ばたくことができると期待したものである。しかし、4年目を迎える今、その期待に応えている状況には決してない。
今回は未来工学研究所の西山淳一氏をお招きし、現在の日本の防衛産業はどういう状況にあり、その課題は何かを詳しくお話いただく。
日本の防衛産業の規模は我が国の工業生産額の僅か0.7%であり、非常に小さい。また、大手企業における位置付けは全体事業の一部であり、重工業で10%、電機企業で2~3%程度である。
我が国は、戦後長く続いた「武器輸出三原則等」による武器輸出禁止の呪縛からまだ解き放されていないために、国際競争に晒されることもなく現在に至っている。つまり、武器輸出に関しては「思考停止」状態を続け、ある意味「鎖国の平和」を享受してきたのである。企業が防衛事業を「リスク」だと考え、「マイナスイメージ」だと思っているうちは発展は望めない。今こそ企業のマインドを変えていく必要がある。
国内においては他の産業で産業再編は起きてきたが、航空宇宙・防衛産業では欧米において行われたような大規模な産業再編は行なわれなかった。今後、日本も防衛産業強化のためには再編を考えるべきではないか。
従来、イノベーションは米国DARPA主導で行なわれ、軍事技術の民間への波及という形で進んで来たが、昨今は民間技術の発展のスピードが凄まじく、いかに民間の技術を軍事に取り込むかが大きな流れになっている。そのためには中小メーカーの技術を発掘する必要がある。米国ではDIUx(実験的・防衛イノベーションユニット)を開設し、シリコンバレーなどの民間技術を取り込もうとしている。日本もそのような活動を考えるべきである。
一方、開発した先端技術を守るという意味で技術情報管理は避けて通れない。防衛省は防衛秘密に関しての管理を行っているが、政府横断的な管理が出来ていない。DSS(国防保全局)に相当する機関がない。また、秘密特許制度がないのも問題である。国家としての機密情報管理はファンダメンタルな機能だ。
技術的にも技術情報流出防止の方策を考える必要がある。供与する技術の選定手法、基準の確立、そのためのブラックボックス化の手法を考える必要がある。ブラックボックス化に当たっては、その技術の確立と費用負担の明確化が必要である。民間会社ではエリーパワー(リチウムイオン電池の会社)のように自ら技術流出を防ぐため工場全体のブラックボックス化を行っている会社もある。
日本が長らく行ってきたライセンス生産の時代は終わった。新しい事業形態を考える時に来ている。外国企業の買収や日米JV(ジョイントベンチャー)会社方式もあるだろう。国際競争の場に出て行くためにどうすべきかを考えるべきではないか。
昨今、日本企業の信頼度を失うようなスキャンダルが続いているが、その信頼性を回復することが急務である。
日本には「技術」がある。中小メーカーの幅広い技術を発掘し、新しい技術に挑戦すべきだ。技術者は新しいことに挑戦しなくなったらおしまいである。誇りをもって防衛事業に取り組んでいただきたい。