第125回
「米中朝とどう向き合うか」

長野禮子 

 今回は元駐米大使の藤崎一郎氏をお招きして、お話を伺う。以下要点を記す。尚、出席者の大使経験者からも多くの有益な発言をお聞きすることができ、充実した会となる。

第2回米朝首脳会談の4つのシナリオ
1、トランプ大統領が金正恩総書記に、昨年6月の米朝合意の履行を迫る。
2、北朝鮮の非核化の進展が見えないまま制裁を解除する。
3、核・ミサイル発射実験中止、国際社会の制裁を維持しながら協議する。
4、物別れに終わる。
 日本にとっては3番目がよいが、2番目のシナリオになる可能性が高いのではないかと懸念する。日本は拉致問題を抱えている。核・ミサイル問題は、1億2000万の日本人の命がかかっている。大きな問題である。

北朝鮮がアメリカを信用するとは考えにくい
1、北朝鮮(金正恩)がカダフィやサダムフセインの末路を意識していない訳はない。
2、米国が米朝合意を守るという保証はどこにもない。
3、北朝鮮は米国との平和条約や安全保障に期待している訳ではない。
4、北朝鮮は多額の経済支援と有利な取引がない限り、核廃棄するとは考えにくい。
 金日成・金正日も、時間稼ぎをしながら着々と核・ミサイル開発を進めてきた。 

制裁解除を焦る北朝鮮
 北朝鮮の本音は安全保障より経済協力。北の焦りが明らかである一方で、トランプ氏が成果を意識しすぎることが問題である。交渉はトランプ氏でカネを出すのは韓国と日本だと言っている。クリントンがやったKEDOと全く同じ。北も最終的に出て来るのは日本だと理解している。日本は待っていればいいのではないか。

 北朝鮮の開放経済路線には限度がある。一番のネックは、北朝鮮に韓国、中国、日本が入ると、その影響下で今の国家体制を維持することは困難だということ。金正恩の正統性の根拠は何かといえば、金日成の孫であり、金正日の息子であるということである。中国のリーダーとは全く違い正統性の根拠を失う。従って、開放せずに、このまま核に執着し、時間を費やしていくことになろう。

中国の問題
 今一番の問題の根源は、鄧小平にある。一党独裁と市場経済、全く相容れないものを2つ同時にやろうとした。その結果、「先富論」を導入したが、現実はそうはならず、共産党の一部の人だけが恵まれ、とんでもない格差社会を共産主義社会に作ってしまった。トップの人々は、それをよく理解しているため、ナショナリズムを高揚する必要がある。そこでアメリカや日本を叩いたり、南シナ海を核心的利益としたり、軍拡を進めたり、内部のハエやトラを叩いて反腐敗運動などで人気を集めようとする。内外に敵を作ることで、国民の不満を吸収するという従来のやり方は、危なっかしい積み木が小さな刺激でガラガラと崩れ落ちる様を彷彿させる。中国の時代が来るとは思えない。

日露交渉について
日露交渉をすること自体は正しい。それには4つの条件が必要。
1、プーチン大統領の任期は2024年までだが、まだ強い。
2、日本では安倍首相が強い。
3、安倍・プーチンの関係。
4、ロシアはクリミア、ウクライナ問題等で孤立している。
 以上であれば、日露交渉も少し動くかもしれず、この間に進展させたいという思いはある。しかし、日本国民が目指す成果に繋がらなければ、お互いが満足できる交渉ができるまで交渉を続けるか、サスペンドすればいいことである。

トランプ政権で変化する米国
1、アメリカは表現の自由、民主主義、人権等の伝道者であったが、チャンピオンではなくなってしまいつつある。
2、国際機関に対する態度として、国連やWTOも古臭くなっているのは事実だが、刷新されるまでは従来通りで行こうという姿勢が足りない。
3、同盟国に対する姿勢として、日本は安倍―トランプの人間関係で助かっているとはいえ、やはり同盟の関係が足りないのではないかという感じがする。「情けは人の為ならず」というところは折に触れて行っていく必要があるのではないか。
(平成31年2月25日)



テーマ: 「米中朝とどう向き合うか」
講 師: 藤崎 一郎 氏(JFSS顧問・元米国駐箚特命全権大使)
日 時: 平成31年2月18日(月)15:00~17:00
ø