今回の「Chat」は、この春退官したばかりの前統合幕僚長、現在は防衛省顧問の河野克俊氏をお招きした。河野氏のお話は、対中国、対北朝鮮、日韓関係、憲法と多岐に亘った。
対中国について:米国の対中姿勢硬化は、ベトナムなどの周辺諸国の中国に対する恐怖感を強めている。日中関係は現在、政治レベルでは改善に向かっていると言われるものの、中国海警局の公船は64日間連続して領海侵入や接続水域での航行を繰り返し、現場では依然厳しい状況が続いている。この海域での中国公船による活動が増大したのは野田政権による国有化後だが、当時の民主党政権は中国への刺激を怖れ周辺海域を航行するのはもっぱら海上保安庁の艦船のみ。安倍政権に変わってからその方針は変更され、海上自衛隊の艦船も積極的に巡回している。
対北朝鮮について:北朝鮮は、核兵器及び弾道ミサイルの開発を継続しており、これらの問題は何も解決には至っていない。2017年に大陸間弾道ミサイルの発射を連続して行い、グアム島周辺海域に向けて弾道ミサイルの発射を表明。日本は、我が国上空を通過する軌道線上に位置する場所(島根、広島、愛媛及び高知)に地対空ミサイルPAC‐3を配置。更にイージス・アショアの配備が秋田県及び山口県において進められている。これにより、弾道ミサイルの攻撃に対し切れ目のない防衛体制を構築することが可能となる。
トランプ大統領は、米国及び同盟国を攻撃すれば、北朝鮮を完全に破壊すると発言した。ハリー・ハリス太平洋軍司令官(当時)も同様の発言をし、北朝鮮への圧力を強化した。朝鮮半島及び周辺海域には戦略爆撃機や空母等が展開され、米国は北朝鮮の出方次第によっては全てのオプションを排除しないことを強調。
日韓関係について:在任中、国際観艦式での旭日旗掲揚問題やレーダー照射などの問題が発生した。これらの問題に対して、韓国は居丈高。誠意ある対応は見られなかった。レーダー照射については、事実を明らかにする必要性から映像を公開することにした。
憲法問題について:自衛官の中でも様々な立場があると前置きした上で、自衛隊が活動する為には、憲法との整合性を取ることは不可欠であり、自衛隊の根拠規定が明確になるべきとの意見に賛成であるとの見解を示した。憲法は時代の変遷によって適切な内容に改正すべきであり、実際に諸外国では憲法改正が繰り返されている。現状のままでは解釈論議は永久にくすぶり続ける。この議論に終止符を打つべきであると強調。
河野氏は防大時代を含め46年間、自衛官としてその身を捧げ、国防のために尽力してこられた。安倍首相の信頼厚く、統幕長としては4年半、海幕長時代を合わせると7年という長きに亘り日本の安全保障のトップとしてその任務を担ってきた将軍である。今回はその経験に裏打ちされた説得力のある議論が展開された。
海外でも「ドラえもん」の愛称で親しまれた河野氏は、これまでそのポケットから数々の解決策を講じ、日米同盟の深化と日本の防衛を担ってきた。今後も防衛省顧問としてその力を存分に発揮して下さることだろう。