今回は、前日本台湾交流協会台北事務所代表の沼田幹夫氏をお招きし、日台関係の歩みと将来についてお話を伺った。
日本と台湾の「中華民国」は1972年の断交以来、外交関係は無くなったが、経済、文化などの実務関係は益々発展している。一方で、特に安全保障や政治面において日本は常に中国の顔色を窺いながらの外交を余儀なくされ、アジアを取り巻く情勢で一番の問題である対中関係をどのように維持運営していくかということが命題となっている。
台湾はかつて、政権の主要メンバーは外省人で占められ、本省人は李登輝氏他数人しかいなかった。1996年以降、それまで国民党一党独裁下にあった台湾の自由化、民主化に努めた李登輝総統の功績は多岐にわたり、20世紀初頭の大政治家としてその名は今も健在であり、ステーツマンと言われる最後の人とも言える。
当時の台湾には、国民大会代表という人達がいて、大陸や新疆ウイグル、チベットなどの代表約800名が永久的に国会議員として身分も生活も保障されていた。李氏はその全員に500万元を渡して引退させるという大事業を果たし、教育現場ではそれまでの中国史から正しい台湾史を教える教育改革を実現した。
一方、1972年以降の日台との覚書(条約に相当)は全部で64本。そのうち馬英九政権時代(2008‐2016)の8年間で28本。今や日台の相互往来は700万人を超える時代となり、オープンスカイ、投資保護、租税、漁業などに関する協定を締結したことは大きく、将来を見据えた基礎となっている。その約半分が馬英九政権時代に締結されている事実をどう解釈するか・・・。馬英九を評価してもいいのではないか――と氏は語る。
2016年、蔡英文政権誕生。この選挙で民進党は、行政権と立法権を掌握することができた。この結果は日本としても歓迎するものであり、当時、日台の一番の政治的課題であった福島県産の輸入品規制撤廃も間違いなく解消されると思っていたが、結局果たされず、蔡英文という政治家に疑問符がつく状況となった。
とは言え、昨年6月頃からの香港デモ騒動で蔡英文の支持率は急上昇。1月の総統選挙では、国民党の韓国瑜に大差をつけ、蔡英文は再選された。米国はここ数年で台湾旅行法を作り、F16も売却するなどの支援をする一方、日本へのリクエストである「潜水艦技術を移転」「防衛大学校への台湾留学生を受け入れ」に応える状況は、今の日本にはない。
氏はかつて李氏から3度、「日本への片思い」の話を聞いたと言う。台湾が台湾であり続けることが、日本の幸福であることに変わりはなく、今後も日米同盟を基軸とした外交政策で進むことが正しい選択であることに間違いはない。その取り組みが具体化しない大きな要因は、依然日中の政治問題が横たわるからである。経済最優先を続ける以上、政治的解決は遠のく。習近平主席の国賓招待断固反対を表明した本フォーラムは、今を好機と捉え、安全保障をも含めた日台関係の更なる深化のために、安倍首相の「政治力」に期待するものである。