菅新政権発足の16日、外務省総合外交政策局政策企画室長の松原一樹氏をお招きし、『外交青書2020(令和2年版)』(第63号)について、お話し頂いた。
まず、松原氏から『外交青書』の作成を担当する政策企画室についての説明があった。米国務省Policy Planning Divisionに倣い設置されたこの課室は、(1)国際情勢の調査・分析並びに中長期的・戦略的外交政策の企画立案、(2)国内外に対する発信を主たる活動とする部署である。そもそも『外交青書』とは、発行年前年1年間の国際情勢と日本外交について記した外務省刊行物であり、1957年(昭和32年)から発行している。通例4~5月に閣議配付、7月頃より市販となるが、近年では英語に加えて西語や仏語での発信も行っている。
近年、『外交青書』の発刊は国内外から注目を集める傾向にある。国内を見てみると、前年度版との比較という観点で、その文言や扱う分量などの変化に着目し、重要課題の継続性・変化について報道されることが多くなった。海外を見てみると、台湾、韓国、ロシア等の周辺国の外務省報道官談話や各種メディアによって積極・消極両面で報道されている。
また『外交青書』は国際情勢を反映して日本外交の目標・原則を確認する役割を持つ。初版の1957年と2019年を比較してみると、日本外交の目標が「自由と正義に基づく平和の確立と維持」という消極的なものであったのに対し、2019年は国際秩序の維持・発展と国益の確保という、より積極的なものに変化した。また、外交活動の原則は1957年が「国連中心」、「自由主義諸国との協調」、「アジアの一員としての立場を堅持」という三原則から、2019年には「積極的平和主義」へと変化している。
そして『外交青書』からは、日本外交が時の国際情勢の変化を察知し重点分野を据えてきたことが窺える。1957年の国際情勢は東西冷戦や軍縮交渉、中東情勢の転換、核による均衡という背景があるものの、日本外交の重要課題は周辺国との善隣外交、経済外交、対米関係の調整といった、やや国際情勢とは乖離したものだった。2019年になると、中国を念頭に置いたパワーバランスの変化、サイバーや宇宙空間等脅威の多様化・複雑化、保護主義の台頭、感染症など地球規模課題の深刻化、中東情勢の不安定化、北朝鮮などの東アジアの安保環境が国際情勢の変化として捉えられている。これに対し、日米同盟の強化、北朝鮮への対応、近隣諸国(中韓露)外交、中東情勢への対応、経済外交、地球規模課題への対応という6つの外交重点分野を設定している。
質疑応答では、益々厳しい状況にある米国を始めとする西側諸国の中国包囲網が作られようとしている状況を前に、日本外交の取り組みの緩さが指摘されたが、日本としてはまだ、中国との関係改善に対する余地があるとの回答であった。このことについての具体的説明はなかったが、安倍政権継承を唱え誕生した菅政権の対中政策に、国民の期待は反映されるのだろうか。
*新型コロナ感染拡大防止のため、少人数での開催とし、関係者には動画配信とする。