爽やかな秋晴れの9月28日、評論家の石平氏をお招きし、最近の中国情勢をテーマにお話し頂いた。
まず、石平氏から菅義偉新総理と習近平中国国家主席との電話会談の経緯と背景について分析報告があった。時系列では、9月16日午後2時頃、菅氏が新首相に指名されるとその僅か2時間後、中国外交部スポークスマンから新首相就任に対する言及と習近平による祝電が予告された。実際16日夜には中国政府系報道機関が習氏の祝電について報じた。実は今回の中国側の総理就任に対する一連の動きは異例中の異例であった。そもそも中国の認識では、国家元首たる国家主席と「同列」は天皇陛下であり、内閣総理大臣は「格下」だ。その「格下」に対して、就任当日のうちに祝電を打つというのは前代未聞の出来事である。
ではなぜ習氏はそこまでする必要があったのか。その背景には習氏側に国賓来日を是が非でも実現したい思いがある。特に「四面楚歌」状態にある外交がその焦燥感を駆り立てる。貿易の域を越えて苛烈化する対米摩擦、中印国境紛争の頻発、新型コロナ原因調査をめぐる対豪関係悪化、華為問題による対カナダ関係の冷え込み、香港国家安全維持法可決に伴う対英関係悪化、チェコ上院議長の訪台に伴うEU諸国との急速な関係冷え込みといった袋小路である。このように現在中国を取り巻く国際関係は自らの悪手もあって悉く悪化し、孤立化の様相を呈している。この状況は今の中国外交政策が相手国に向くのではなく、習近平の顔色を窺って決定しなくてはいけないことが原因だ。これは2017年10月の共産党大会以来、習氏が進めてきた個人独裁の強化、「新しい皇帝」として君臨してきたことの産物と言える。
そこで25日夜の日中電話会談である。中国は真っ先に祝電を送ったにも拘わらず、日本は豪、米、独、EU、英、国連、韓、印の元首達との電話会談後に中国との電話会談を行っている。しかもそれは痺れを切らした中国側からの要請に基づいた電話会談であった。そして報道の通り、菅総理は習氏に対し国賓来日について約束はおろか、言及することすら無かった。習氏は完全にメンツを潰された格好だ。それでもなお中国は 10月王毅外相を日本に送り国賓来日のための工作を行うという。
今回の質疑応答では今後の日本の対中政策を考える手掛かりが窺えた。菅新政権の下で日本の取るべき外交方針についての質問に対し、石平氏は日米同盟及び日米豪印からなる戦略対話(Quad)枠組みの強化を挙げた。石平氏の言葉を借りれば、「菅(すが)にすがる」姿を見せる習氏に日本は手を差し伸べるべきではないのだ。寧ろ、英米豪ニュージーランドとの情報機関交流を目的にしたUKUSA協定(通称、ファイブアイズ)への参加を進め、日本の「目」を強化すべきだろう。そして台湾は勿論だが、中国の脅威に晒されるフィリピンやベトナムといったアジア諸国とともに自由と民主主義、法の支配、基本的人権といった価値に基づく外交を展開し対中包囲網を固めることが新首相の下で採るべき「対中政策」であって、国賓招待は白紙に戻すべきではないか。
*新型コロナ感染拡大防止のため、少人数での開催とし、関係者には動画配信とする。