菅義偉政権誕生から丁度1ヵ月経った10月16日、自民党副幹事長で衆議院議員(大阪14区選出)の長尾敬氏をお招きし、菅政権の外交政策をテーマにお話し頂いた。長尾氏は保険業界出身のいわゆる「厚労族」であるが、経済安全保障を推進し、日本チベット国会議員連盟に名を連ね、緊迫する尖閣諸島周辺海域にて地元漁業関係者を支援するなど、日本及びアジアを取り巻く外交・安全保障に精通しており、今回はご自身の経験と菅新政権の外交スタンスを絡めた幅広い話題を提供頂いた。
まず、チベットに関連して菅新政権は間もなく対印ODAスキームを活用して、チベット難民への支援を開始する。難民キャンプでの小規模水道事業支援に過ぎないのと、コロナ禍により遅延しているが、我が国の支援が直接チベットの人々に届くことは長年の悲願であり、大きな一歩である。
次に経済安全保障について、長尾氏は外国資本による企業買収や土地取得といった営為活動を国防の観点から監督する統合的機関として米国対外国投資委員会(CFIUS)に倣った機関の設置を急ぐべきだと主張する。1979年までは外国人による土地取得は許可制であり、WTO加盟の段階で無許可になった。また健康保険に関しては1986年までは外国人の加入は不可能だったが、日本と諸外国(主に米国)対外貿易不均衡に起因する外からの圧力に晒された80年代後半、市場開放アクションプランの一貫として開放されたことに端を発する。
しかし、昨今の日本を取り巻く安全保障環境の変化は経済面にも及ぶことから、長尾氏は国内市場、企業の先端技術、国土等の保全は今や喫緊の課題であると警鐘を鳴らす。菅政権は前政権を継承し、新国際秩序創造戦略本部(本部長:岸田文雄政調会長、座長:甘利明税調会長)主導で経済安全保障体制の整備を進めている。
最後に、菅政権の外交方針は基本的に前政権の継承となるとみて間違いない。対中政策をめぐっては日米豪印の枠組みで中国を牽制してゆく。ただこれまでの対中政策は「日中友好」を背景にした政治家のエゴのようなもの、日本財界の利益が優先され、それよりも大事な国家安全保障が蔑ろにされてきたきらいがある。昨今の尖閣諸島をめぐる状況の放置は国益の損失を招きかねない。前例を当たり前とせず、「日中友好」から距離を置く政治的決断をすべき時機が到来している。
質疑応答では尖閣有事を想定した政治的な決断の重要性に及び、会場では熱を帯びた充実した対話が行われた。日本を取り巻く外交・安全保障環境が刻一刻と変化している今、外圧によって変化が生じる従来の日本のスタンスに固執するのではなく、長尾氏のように決意の「強さ」と「重さ」を示せる人物が一人でも多く立法府にいることが重要ではないか。今後も長尾氏と菅新政権の外交・安全保障分野での活動を注視したい。
*新型コロナ感染拡大防止のため、少人数での開催とし、関係者には動画配信とする。