秋深まる11月13日、参議院議員の有村治子氏を迎え、経済安全保障を切り口に我が国の現状と今後の取り組みについてお話し頂いた。
経済安全保障とは、通商・貿易、金融、流通、医療といった多岐に亘る分野での脅威と安全保障が切断不可能な関係にある現代国際社会にあって、これらの領域における安全の確保(脅威の除去)が国家安全保障に結びつくという、比較的新しい概念である。
これまでの軍事・防衛を中心としてその道の専門家(プロ)集団が率いてきた伝統的安全保障の概念とは異なり、所謂「専門家」のいない―裏を返せばあらゆる人々が「メイン・プレイヤー」になり得る―発想である。更に言えば、伝統的安全保障だけで国家は守れない状況にあるということである。
この経済安全保障を私たちに強く意識させた要因は、コロナ禍で寸断された地球規模の供給連鎖(サプライチェーン)の中で、日本がマスクなどの医療品を中国を含む海外からの輸入に依存しているという現実を身をもって体験したことにある。近年、自動車など最終財を製造する多くの国々は、そのサプライチェーンの中に中国が部品やソフトウェアの供給という形で入り込むことで、目に見えた戦闘や侵略のないまま「静かに進む侵略」を受入れ、いつの間にか中国のコントロール下に置かれてしまっているという現実問題を抱えている。
米国では2016年にトランプ政権が誕生して以降、自国市場からの中国の「デカップリング(切り離し)」を速度感をもって進めている。
日本も多くの日本企業が中国を始めとする世界の国々に展開し商品を供給している状況において、かつては製造拠点や部品供給拠点としての中国を完全に排除することは困難との見方が強く、与党内でも依然として足並みが揃っていない。
しかし近年、経済安全保障に対する取り組みは見直されつつある。その1つが、日本政府が中国からの移転を検討する企業への支援を開始したことである。国民生活の安全を優先して考える経済安全保障は、党派やイデオロギーを越えて対話を促す概念として大切にする価値ある政策と言えよう。
中国は2020年5月、豪州が中国に新型コロナをめぐる独自調査を提案したことの報復として、豪州の食肉などが中国市場から排除されつつあり、似たような現象はカナダやフィリピンにも及んでいる。中国は自国の巨大市場を武器に戦わずして相手国の根本を揺さぶる脅しをかけたのである。このことは日本にとっても他人事ではなく、尖閣諸島国有化直後の民間人の拘束など、中国があらゆる分野で戦争を仕掛ける「超限戦」を経験したと言える。
これに対し、有村氏は同盟や国際社会との連携によって対応して行くべきであると提案する。氏はまた、中国の「千人計画」を始めとする日本の研究成果や中国への技術流出・実用化を断固として許すべきでなく、国家国民の利益に反することは国民の代表として問い続けてゆくことを言明した。
質疑応答では、有村氏から主権の重要性に関するお話があった。このことは、我が国の領土における防衛義務を全うするための覚悟と、その責任を政治に問う必要と価値を確認する機会となった。「他国の干渉や支配を受けずに自らの権利を行使する至高の権利」たる対外主権は、自国の独立を守る上で国民の理解を促し、その意識を強く発信する必要性が欠かせない。一方で、憲法改正については、政治家が改憲への意欲を言及すればするほど、票を減らすかも知れないという「十字架」を背負っていると、氏の正直な言葉が最後まで頭に残った。
この国の将来を考える上で、有村氏のような気概ある議員を選出する責任は、有権者である我々自身の双肩にかかっている。このことを改めて認識するいい機会であったと共に、熱く説く有村氏の姿勢に政治家としての頼もしさと、今後の活動への期待を強くした。
*新型コロナ感染拡大防止のため、少人数での開催とし、関係者には動画配信とする。