第149回
「ワシントンから見た日米関係――Washington-View Nov. 2020」

長野禮子 
 
 世界の注目を集めた米国大統領選挙から早3週間を過ぎた11月27日、米国より帰国中の吉田正紀氏をお迎えし、11月3日に投票が行われた米国大統領選挙および次期政権の安全保障政策ついてお話し頂いた。
 今回の大統領選挙は得票数で歴代1位となったバイデン氏と同2位のトランプ大統領が戦った一戦であったが、吉田氏はこの歴史的得票数が持つ意義に焦点を当てた。2016年の大統領選挙ではトランプを擁する共和党が勝利したが、その中身を詳細に見てみると、共和党+トランプ党という層ができており、後者が民主党の取り分を食う形で共和党が勝利を収めたという。同党が敗れた2018年の中間選挙では、同氏によると穏健的な共和党議員が引退、一方でトランプに忠誠を誓う議員が台頭、即ち「共和党≒トランプ党」という構図があったからこそ、敗北の傷はそれ程大きくならなかったという。そして2020年で再び共和党が敗れはしたものの、歴代2位の熱量を帯びた勢いはまさにトランプ教とも呼べるものであった。
 その後の情勢は予断を許すものではなく、上院で共和党が過半数を確保すれば、ねじれの効果によりバイデン政権は共和党とのディールに腐心しなくてはならず、重要法案が成立しにくくなり、場合によっては2022年の中間選挙で下院でも敗れるケースも想定される。この他にも今回の大統領選挙の結果を受容しない過激なトランプ支持層が起こすデモに対し、米軍が今度こそ治安維持に動員され内乱状態になるシナリオも無視できない。
 新政権誕生後の展望については、ひとまずバイデン政権の優先事項は内政(コロナ対策、国内経済)となり、軍事費は抑制的(頭打ち)になるようである。対中政策に関して、オバマ民主党政権にとって最大脅威はロシアであり、次いでイスラーム国(ISIL)が続いており、中国は「懸念すべき」対象にすぎない。しかし今では超党派の合意形成が容易である程に対中認識が変化しており、米国民の多くも中国を脅威として認識している。一方で、中国とは気候変動での協力が重要との意見もあり、この分野で中国が主導権を握る可能性もあるという。
 そして日本の安全保障の要である日米同盟に関しては、同盟の質的変化に言及し、戦後の「強く正しい」米国から今では相対的に「弱く正しくない」米国と向き合わなくてはならない日本の覚悟が求められていると主張。また、新型コロナウイルスの影響により米中関係が貿易や技術で優位性を確保する競争(Competition)から、体制や規範の相違による排他的な対立(Confrontation)に変化したとする見方を紹介し、「建党100年(2021年)」、「建国100年(2049年)」そして「建軍100年(2027年)」を控える中国への警戒を強めるべきだと話した。
 現在、目下の危機としては台湾有事であり、日本(南西諸島)が有事となる蓋然性が高まっている。日米台間で、政治・経済・軍事的認識の共有がなされてない現状のまま、中国海軍力の優勢が続けば、同盟の抑止失敗、戦略・作戦上の不測の事態に陥ると吉田氏は警鐘を鳴らす。そのための日米同盟の抑止力強化は不可欠であり、①価値、②利益、③行動という3つの共有を提言した。その上で、日米同盟は地政学(政治・安保、軍事)、地経学(経済、金融、通商)、地技学(大量情報処理、AI、ロボット技術)的見地から、幅広いコンテクストで再・再定義を議論して行かなくてはならないと強調した。
 質疑応答では次期米国政権で確実視されている米国防予算の削減方針について、日本はどう向き合うべきかという議論に及んだ。軍事費削減は、米軍の力の相対的低下、それに起因する士気の低下、事故の増加といったマイナス面が大きいという。それだけでなく、戦略や装備に関連する大規模な変革が伴う場合が多いが、これは時間を要する。このような状況では国防のみというよりも、外交、経済を使った包括的なアプローチをもって同盟関係の維持・強化を果たす必要があるだろう。
 今回、吉田氏の話の中で「弱く正しくない」米国とどう向き合ってゆくかという同盟の再・再定義について触れていたことが印象的だった。この意味で今まさに日本は本来同盟国として当然の「ものを言う」同盟国、ひいては信頼できる真のパートナー国となるか、口と金だけの友好国のままか、自ら決断する時期にあると言える。
 在日米軍駐留経費に関する特別協定が2021年3月に期限を迎えようとしているなか、今後の日米同盟の深化に思いを巡らせる機会となった。
 
*新型コロナ感染拡大防止のため、少人数での開催とし、関係者には動画配信とする。
テーマ: 「ワシントンから見た日米関係」
講 師: 吉田 正紀 氏(JFSS政策提言委員・元海自佐世保地方総監(元海将))
日 時: 令和2年11月27日(金)14:30~16:30
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