今回は、日本維新の会の松沢成文氏(参議院議員、元神奈川県知事)をお迎えし、我が国が現在抱えている諸課題、国家としてのあるべき姿について思いの丈をお話し頂いた。
まず松沢氏は現代日本の礎となった明治維新以降の制度改革から振り返りつつ、日本が高度経済成長により大きく発展した歴史に触れながら、現在の日本が直面している課題として、東京一極集中と地方の過疎化をもたらした現実に言及した。その最中で小泉政権により行われた三位一体の改革には功罪両面があるとし、また道州制についてもかつては盛んに議論の対象になったものの、結局実現には至らずにいる現状を指摘。特に地方分権改革が様々な分野における既得権益により阻まれた点を強調した。
制度改革が十分に進まない中、松沢氏は今後の国の在り方を考慮する上で必要な改革案を述べた。まずは天皇制・皇居にかかる所見について、国家・国民が天皇制の下で統合を果たしているこの日本の体制は良しとしつつ、東京一極集中の解消策として、皇室の関西移転を提案。皇室が明治期に京都から現在の東京へ居を移すまでは西が文化の中心であった歴史があり、天皇の権威と政治の融合により近代日本を形成する目的は果たされたため、政治の首都は東京のままとし、文化の首都を関西のいずれかの地とする二都構想を挙げた。
また、現在皇居となっている江戸城跡に関し、かつて江戸の空に聳えていた天守閣再建計画を紹介した。江戸時代に大工棟梁であった家に伝わる設計図を基に復元を目指すという。そしてその財源は税金ではなく民間資金(寄付金や融資)で賄うことが可能であると述べ、このような文化財の保存事業は実物の保存、技術(城大工・宮大工)の継承、観光業への貢献といったメリットがある。
続いて日本の歴史教育に話題が移った。中国や韓国の歴史教育の内容はやはり日本批判のきらいがある一方で、当の日本では受験対策に偏りがちな内容(年号暗記など)が多い面を指摘し、日本の子供たちが将来大人として海外を相手にする際に真っ当な話が難しくなると警鐘を鳴らす。自国の歴史を学ぶために神奈川県知事時代の松沢氏の肝煎りで実現したのが、県立高校での日本史の必修化だ。更に、日本史・世界史との区別を取り払い、国際関係における日本の近現代史を学ぶための「歴史総合」科目の必修化という教育改革を実行している。ただ、教科書の選定は困難な面があるという。
依然として日本を取り巻く環境が厳しさを増す安全保障については、アジアは欧州の功績に学ぶべきだと提言し、アジア版NATOの形成に言及した。特に南シナ海で周辺国との摩擦を引き起こしている中国への対応を念頭にしたものである。構成国にはまずは米国が必要不可欠であると述べ、ASEAN諸国、豪州、インドの他、英国、フランスという欧州の大国の名も挙げた。そして中国もこの同盟に加え、何らかの違法行為が行われた際には加盟国全体で制裁に訴える等の案も出た。
日本の憲法改正については、安全保障および国家緊急事態に関する条項が現行憲法に明記されていない現状を指摘し、改正憲法には自衛隊の役割を明記すべきだと述べた。一方で、野党の反対により憲法審査会での議論が進まない現状に厳しい意見を示した。
松沢氏は他にも、新型コロナウイルスの対策で成果を挙げた台湾のWHO加盟への賛意や、福島県の原発・汚染水処理問題等、幅広い分野について見解を述べた。
質疑応答では、日本の離島管理や海事人材の確保や、少子化対策といった多くの話題が議論されたことは勿論、多様かつ大胆な氏の発想や主張は出席者の共感を呼んだ。特に憲法問題や我が国を取り巻く安全保障への取組については、現状を見据えた国家運営とは言い難く、独立国家としての体も成されていない。こうした現実に憂国の思いを引きずりつつ、改めて「国家のあるべき姿」を再考する良い機会となった。