第154回
「日米首脳会談と今後の米中関係について」

長野禮子
 
 今回は日米首脳会談を翌週に控えた4月7日、前駐米大使の杉山晋輔氏をお招きしての「Chat」である。冒頭、杉山大使から先の米国大統領選挙に絡めて、トランプ前大統領の功罪について発話があった。まず「功」として、2016年当選時の得票動向にも示された通り、米国中西部ラストベルトに象徴される非エリート白人を中心に約4割の支持を得、ワシントンのエスタブリッシュメントによる言行不一致(所謂「フェイク」)を指摘したことで、米国政治の根底に横たわってきた政治的欺瞞を指摘し、「アメリカの本音」を体現したことである。他方、「罪」として、人種、宗教、出自といった基本的な社会構成要素を軸にした対立を世論形成に利用したことで亀裂が深まったことだという。これは長い間封印されてきた米国の「パンドラの箱」を開けたことに等しい。政治家として豊富な経験を持つバイデン新大統領にとっても、前政権より遥かに難しいだろうと大使は語る。
 4月16日の日米首脳会談については、尖閣防衛、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」戦略、北朝鮮の非核化等、共同文書に盛り込まれる課題については枚挙に暇がないが、大事なことは最高指導者として両首脳が会うという事実であり、個人的な信頼関係を構築するきっかけとなることが一番の成果であると言明する。
 今回、米国が最初の会談相手に日本を選んだことは、現政権がいかに日本を信頼し重要視しているかの表れである。同盟とは必ずしも同じ目標を掲げることではなく、双方の立ち位置や政策、価値観の共有を確認した上で、維持、活用することである。そういった意味で、今回の日米首脳会談の意義、国際社会への発信は大きな意味を持つ。米国にとって日米同盟は、日本の、他に類を見ない長い歴史とそれに培われた伝統文化、世界第3位の経済大国としての国際的地位、これらに立脚している。
 約3年間の駐米大使としての経験から導かれる杉山大使の思いとは、日本が「等身大の自信」を持つということだ。3月に行われた日米豪印(Quad)の初の首脳会談をさらに充実したものにするためにも、日本のリーダーシップが期待される。それがつまりこの地域の安定に最も重要であることは言うまでもない。
 台湾問題については、日米にとって台湾は「重要な要素の1つ(an important factor)」(1969年、佐藤—ニクソン会談)に留まるが、その重要性は当初想定していた朝鮮半島よりも緊迫している。先の日米2+2の共同声明からも明らかなように、台湾有事イコール日本有事である。このことが日米安保の新基軸になってくるだろう。
 対中政策を念頭に置くバイデン政権にとって、日本は最も信頼できる相手である。逆に言えば、その期待に菅政権が何を以て応えられるかが問われよう。米中対立新時代にある今、日本が心して臨むべきは、日本として大きな絵を描き、「負担共有(burden sharing)ではなく、責任共有(responsibility sharing)」という認識の下に、日本はその役割をきちんと担うべく、具体的な取組を行動で示すことが更なる日米関係の発展に繋がるということだ。
 16日、世界が注目する日米首脳会談はさらに重要度を増すであろう。
 
*新型コロナ感染拡大防止のため、少人数での開催とし、関係者には動画配信とする。
テーマ: 「日米首脳会談と今後の米中関係について」
講 師: 杉山 晋輔 氏(JFSS顧問・前米国駐箚特命全権大使)
日 時: 令和3年4月7日(水)14:00~16:00
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