コロナ禍が続く中、今回も参加人数を限定した中での開催である。本年度『防衛白書』の本編は従来と同様に4部構成で、第1部「わが国を取り巻く安全保障環境」、第2部「わが国の安全保障・防衛政策」、第3部「わが国防衛の三つの柱」、第4部「防衛力を構成する中心的な要素など」である。中心的な話題はやはり「中国」及び「米中関係」であり、特にこれらをテーマに説明いただいた。
まずは概観として現在の安全保障環境の特徴に、「グレーゾーンの事態」と「ハイブリッド戦」という2つのキーワードを挙げ、純然たる平時でも有事でもないシームレスな状況と軍事・非軍事の境界を曖昧にした手法の双方に対する警戒が必要な時代となったと解説した。
その上で、我が国にとって大きな懸念対象となっている中国に言及。軍事資源と民間資源を結合させる「軍民融合」政策を中国が全面的に推進しており、将来の戦闘様相を一変させる、所謂ゲーム・チェンジャー技術の発展も重視している傾向にあると指摘。特に軍事力の近代化に重点が置かれており、そのマイルストーンとして建軍100周年(2027年)や国防と軍隊の近代化(2035年)などを定めているが、具体的な内容については未だ公表されておらず、引き続き注視していく必要性を説く。
更に、INF全廃条約の枠外にあった中国は、同条約が規制する地上発射型ミサイル(射程500~5,500km)を多数保有し、この条約の規制によりミサイルを持たない米国とのミサイル・ギャップが拡大しており、これは周辺地域におけるA2/AD(接近阻止/領域拒否)能力が目的にあると指摘した。この他、中国が保有する最新の空母や軍用機の現状に触れた一方、中国海警局の準軍事化による我が国周辺海域での活動状況を紹介し、中国がもたらす多くの懸念事項に警鐘を鳴らした。
中国との戦略的競争関係に入った米中関係については、互いに自国の安全や重要な利益については妥協をしない姿勢を示しており、今後様々な分野において米中間の競争が顕在化していくという。そして、台湾をめぐる情勢の安定は我が国の安全保障や国際社会の安定にとって重要であると明記し、一層緊張感を持って注視していく必要性を強調した。
質疑応答では、日台関係の発展に向けた防衛省の姿勢や取り組みについての質問が出たほか、日本の南西諸島防衛の強化が台湾海峡の安定に繋がるとの見方を共有した。また、依然としてGDP比1%の水準に留まっている防衛予算については、概算要求の時点からより強い姿勢で増額の必要性を訴えて欲しいという意見も出た。