第162回
「日本の防衛戦略と防衛整備計画改正について」

長野禮子
 
 今回は久々に来日したケビン・メア氏をお招きした。氏はまず、我が国が年末までに纏め上げる所謂「国防3文書」の自民党案に対し、現実的であると高く評価する一方、今後は政策だけでなく戦術レベルで具体的に何が必要かを速やかに考えていく必要があると指摘した。昨今の安全保障環境に時間的な余裕はない。「戦争はいつ起こるかわからない。脅威の前に、抑止力や強い対処能力の構築が必要であり、よい政策ができたからといって問題が解決できたわけではなく、実際に効果的な防衛能力を向上させることが急務」ということだ。
 また、今は「存立危機」「武器輸出三原則」が守られているか否かといった抽象的な議論をしている暇(いとま)はなく、特に「反撃能力」を充実させることである。氏の話によれば、安倍政権が登場するまでは、日本の反撃能力保持が米国の国益に適うのかという議論があったが、これは日本が集団的自衛権を行使できなかったからで、一部容認となってからは、米国内の議論の中身が大きく変わったと言う。
 ただ、現在の日本の状況に懸念もある。反撃能力の保持を表明するのは今年12月と見られるが、具体的な能力が伴わない時点では、それが却って危険な状況を作り出す可能性もあるということだ。氏はこれを、「弾が入っていない拳銃を振り回すと相手に狙われやすい」と譬えた。つまり、打撃力の研究開発には多くの時間を要することから、既存の打撃能力を拡充し万全な備えをすることが必要であり、そのためには具体的に何を導入するのかを早く決めるべきではないかと言う
 少子高齢化が進む我が国には、自衛官の人手不足の問題がある。氏は自衛隊のパイロットを例に挙げ、現在訓練は現役のパイロットが行っているが、英国は、民間企業と退役パイロットが契約して英国軍のために訓練している。日本もこれを参考にするべきではないかとの提案があった。
 最後に氏は、現在の国際的な安全保障状況を見ると時間的余裕はないという認識の下、戦術的、戦略的にどうすれば早く中・露・北の脅威に対処できるか、どのような能力が必要かを冷静に見直すべきではないかと締め括った。
 「Chat」(質疑応答)では、ウクライナ戦争に連動する中国の台湾侵攻、日本の核論議に対する世論の動向等についても忌憚のない意見交換がなされ白熱した議論となり、約40分の時間延長となった。
テーマ: 「日本の防衛戦略と防衛整備計画改正について」
講 師: ケビン・メア 氏(JFSS特別顧問・元米国務省日本部長)
日 時: 令和4年6月16日(木)14:00~16:00
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