第163回
「『ウクライナ戦争の衝撃』の説明と中台関係」

長野禮子
 
  今回は5月末に出版された『ウクライナ戦争の衝撃』の執筆メンバーである山添博史氏と増田雅之氏(共に防衛研究所)をお招きした。
 今次のロシアによるウクライナ侵攻に、世界は21世紀に起こったこの侵略戦争への衝撃と驚愕、民間人を巻き添えにした惨状に言葉を失った。国連の常任理事国であり、核大国ロシアが自ら国際秩序を踏みにじり、主権国家の政治的独立を認めず、領土の一体化という自国の主張を正当化し、武力行使と核使用をも躊躇しない強硬姿勢は、今日もウクライナ国民を苦しめ、死の淵を見せ続けている。
 侵攻前、ロシアは「NATOの東方拡大阻止」と「ウクライナ東部の親露派救済」を理由に、2021年11月頃からウクライナ東部国境付近に大部隊を展開させ、緊張を高めつつ、最大19万の兵を終結させたと言われる。2022年1月、ロシアは、ウクライナのNATO加盟を米国が拒否するよう求めた。バイデン政権はロシアの要求を拒否した。その後の外交努力も奏功することなく、2月24日、ロシアはウクライナに侵攻した。ロシアは短期間で勝利すると見積もっていたが、想定外のウクライナの反撃に色を成した。
 侵略戦争から半年が経過。バイデン政権はウクライナに対し莫大な軍事支援を行う一方、
 ロシア軍との軍事衝突を避け、「介入なき平和」を目指している。ロシアはウクライナ国民の独立自尊の強い意志や戦闘能力を見誤った。西側諸国の軍事支援を含む様々な協力を見誤った。フィンランドとスゥエーデンのNATO加盟を急がせた。西側諸国の結束が益々強まった。ロシアへの制裁を他所にロシア国内のプーチン支持は高い。しかし戦争が長引くほど両国の犠牲は増し、ロシアからのエネルギー、ウクライナの食糧に依存する国々への影響は拡大していく。
 この戦争でよく話題になるのが「ウクライナ戦争の教訓」であり、「中国の台湾侵攻」である。「教訓」については専門家を始め様々語られるが、この現実にあって改憲すらできない日本人には、ウクライナ国民に学ぼうにもその根本精神に大きな乖離があるように見える。「中国」については、8月6・7日に当方(JFSS)が開催した台湾侵攻を想定した第2回政策シミュレーションの3つのシナリオを参考にしていただきたい。
 2014年のロシアによるクリミア併合後、中国は対米牽制を含む多面的な利益の確保を目指して中露関係を発展させてきた。中露の「戦略的協力」の深化は、この時期からであることが指摘されているが、「ウクライナ侵攻」は、中国にとっても想定外であったという。
 とは言え、中露関係は活発な首脳外交を通じて強化されている。中国共産党は指導者がリードして「正確な道」を歩んできた、と強調しているが、中国指導部にとって「米国かロシアか」という問題設定そのものは成立し得ないものであり、当面中露関係の連携は続くものと考えられている。
 岸田政権は、G7を始めとする西側諸国と連携し対ロシア政策を進めているが、今や、西側諸国対権威主義国家という2極で判断することは難しく、ASEAN・インド太平洋・中東・中南米・アフリカと、その主張は互いの国益を優先し益々複雑になっている。岸田政権には、その中にあって、日本の立ち位置をしっかりと定め、揺るぎない国家戦略を立てていただきたい。
 防衛研究所の研究者が連日メディアに登場し、極めて専門的見地で現況を語り分析し、今後の取組に対する意見を発する状況は、かつてない日本の姿として大いに歓迎したい。
 8月24日付の産経新聞によれば、ロシア・ウクライナ両国の軍関係者の死者は2万数千人を超え、ウクライナの民間人は約6千人が死亡したとある。ウクライナにヒマワリが咲き乱れ、肥沃な大地に小麦の穂が風に揺れる静かな平和はいつ訪れるのであろう。
テーマ: 「『ウクライナ戦争の衝撃』の説明と中台関係」
講 師: 増田 雅之 氏(防衛研究所 政治・法制研究室室長)
講 師: 山添 博史 氏(防衛研究所 米欧ロシア研究室主任研究官)
日 時: 令和4年7月15日(月)14:00~16:00
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