「中国の将来不安」
―「一帯一路」「経済成長率」「人口減少」「所得格差」「ウイグル問題」「一国二制度」―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 米国が仕掛けた貿易戦争によって、中国の経済は相当に傾いているらしい。中国が世界中を巻き込んだ一帯一路計画も、事業国でうまくいっているという評判は聞かない。中国に譲渡された運営権利も、儲かっているという話も聞かない。
 中国の経済成長は目下、6.0%成長と発表されているが、実態はそれ以下とみる経済学者が多い。中国が6.0%にこだわるのは最低6.0%成長しないと国民の生活レベルが下がるからだという。見通しが危うくなったせいか、今年初めに大声で叫んでいた「2049」とか「中国製造2025」という掛け声をさっぱり聞かなくなった。戦略上、そういうことを言ったせいで、トランプ大統領を怒らせたと思っているのか。経済実態の悪さで見通しが狂ってきたのか。
 中国の1人っ子政策は、みんなで生き残るために人口は増やさない方がいいという考え方から生まれた。しかしその1人っ子が世の中を背負う時代になった。両親のもとに1人。他の両親に1人。その2人が結婚して子供が1人。やがてその1人が両親とその親4人、計6人の面倒を見なくてはならない。この事態に直面して中国政府は1人っ子政策をやめたが、出生率(女性1人当たりが生む子供の数)は1.3にしかなっていない。この傾向が続くと中国の人口は13億人強から約6億人に半減するという記事(日経新聞11月10日付)では、米国の人口は3億2千万人だが、今世紀末には4億5千万人に増えるという。米国の増え方は移民人口が増加する傾向だから、生産人口が増えることでもある。
 中国は現在でも都市と農村の所得格差は10対1ともいわれ、農村の親たちには年金もない。日本は1億2千万人から8500万人に減るといわれているが、曲がりなりにも年金制度や失業給付、医療制度などがそろっている。日本の中には「移民を受け入れて人口を減らすな」という議論もある。
 欧州諸国は人口政策として移民を受け入れた訳ではない。EU内の〝博愛主義〟ともいうべき善意によって受け入れ過ぎた。このところ各国の総選挙で移民に反対する右派が勝っているが、右派の考え方は政治に反映されるだろう。
 中国が時代の節目に当たって取っている政策は、外に向かっては軍事強国を叫び、内に向かっては情報の統制をすることのようだ。国内では不満が膨張しているが、その不満を力で押さえ込もうとしている。
 中国は新疆ウイグル自治区では百万人単位で再教育をしているという。イスラム風の頭を切り替えて貰いたいと言っているそうだが、中国風イスラム教とは一体何か。キリスト教徒も大半は地下教会に通っている。香港に「一国二制度」を約束したが、力で一体制に吸収しようとしているのは、公約違反ではないか。今の香港を残さない限り国際金融市場として残れないだろう。 
(令和元年11月20日付静岡新聞『論壇』より転載)