外資が狙う日本の国土と水資源
(4)何故外資に土地を売ってはならないか
 
農学博士  渡邉 巌

 このようなあたりまえの命題で1項を立てなければならないのは些か情けないが、『「外国人に土地を売るな」と言うけど「日本人もバブル期にはニューヨークのロックフェラー・センターやエンパイアー・ステイトビルなどを買収して顰蹙をかっていたではないか』という反論が必ずあるためだ。似て非なるものをとりあげて反論をするのは左翼のインテリが好む常套手段である。建物と土地は全く性格が異なるほか、アメリカの土地売買は連邦法と州法で二重に厳しく規制されている。
 土地を外国人に売ってはならない理由は
 @ 国家の財産である国土が、外国に奪われてはならない
   国家が国土を確保することは、最重要課題である。竹島や北方領土の不法占拠を許し、尖閣諸島問題でも弱腰外交が続く。
  外交での主張を支えるものは軍事力であり、さらには国民の支持である。前者は日本の場合それほど弱くは無い。ただ「寄らば
  切るぞ」という真剣さが認められない。国民の支持を確かにするには、国の主張の基になる歴史的経過を国民や世界を相手に
  何度でも説明を繰り返すことが必要である。国益のために存在するはずの日本放送協会(NHK)が十分その機能を果たしてい
  ない。
 A 国土が持つ外部経済は外国に渡せない
   市場主義に毒されている現代人は、物には市場で評価される価値以上の価値がある場合があるということを忘れがちであ
  る。経済学の分野では、この種の価値を「外部経済(価値がプラス)」「外部不経済(同マイナス)」と呼ぶ。実例を挙げた方が分
  かり易い。例えば水田は稲を育てて米を得るという価値以外に、地下水の涵養に貢献する・洪水の時には水の一時的貯水機
  能を果たす・目に優しい田園風景を提供する・稲がCO2を吸収して環境保護に一役かっている―など米の価格には含まれない
  プラスの価値を生んでいる。これを外部経済という。一方、ガソリン1リットルの価格には、それが消費された時に出るCO2 の地
  球環境へのマイナス効果を消去するのに要する経費が含まれていない。この経費を外部不経済という。
   自国の土地を海外資本に売り渡すということは、土地が持つ安全保障という外部経済を放棄することになる。この外部経済を
  失えば、国が国家として機能しなくなる。
  B 森の公益性を確保する
   外部経済は見方を変えると「公益性」と言ってもよい。日本のように土地に対する私的権利が強すぎる場合、土地資源が持つ
  「公益性」が無視されることになりがちである。森林は公益性が特に大きい保安林と普通林とに分けられる。前者は公益性とし
  ての保安効果が大きい森林であり、その伐採は許可制で、これに違反すると50万円の罰金が科せられる。並みの公益性の場
  合には普通林に区別され、伐採は届出制で、違反すると30万円以下の罰金が科せられる。しかし、自治体にはそもそも違反を
  チェックする機能が弱く、仮に違反が確認されても実際に罰金が適用された実例が無い。行政の機能が劣化していると云える。
   保安林には以下のような公益的機能が期待される
   1、 水源の涵養
   2、 土砂流出・崩壊の防止効果
   3、 飛砂防止、防風効果
   4、 雪崩、落石防止効果
   5、 風致保全の効果

  このため、保安林には厳しい開発規制がかかり、転用開発が難しいため、民有林が保安林化されると資産評価額は4割程度に下落する。この損失を補償するため、固定資産税と不動産取得税の免除、相続税、贈与税の控除、造林関係補助金への優遇措置などが図られる。しかし、民有林の所有者は保安林指定を避けようとする傾向があり、現状では保安林は民有林の3割にすぎない。
  C 国家の安全保障を確保する
   外国に近接する国境地域は、国家の安全保障上極めて重要であるにも拘わらず、一般には都市からは遠く過疎化が進み、
  土地の経済的評価が低い。国土を買おうとする外国資本にとっては、利用価値が高く、かつ価格が安いとくればこれらの土地
  はまさに狙い目である。防衛施設近辺、空港近辺、港湾近辺、離島、沿岸地帯などについては、真っ先に国有地化を図るべき
  である。一端買われてしまえば、後で取り返そうとしても事後の立法は認められないと主張され、長年にわたる国際間紛争のも
  とになる。たとえ外国がここに軍事関係の施設を作らなくても、小屋を建て、望遠鏡を設置すれば日本の軍隊の動きを母国に
  報告できる。公益性の観点から、例えば尖閣諸島を強制的に国が買い上げて国有地にする必要がある。私的土地所有権より
  も土地の公益性が尊重されるべきである。国土領域の保全を図るため離島に定住する人を置くなど、国境管理機能について
  真摯な検討が必要である。 (つづく)
(2012.2.25)
 
 
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