新春に思う
農学博士  渡邉 巌

 暮れから正月にかけて体調を崩した。あの大震災をここまで引きずってきてしまったようだ。悶々とする頭の中では、遅くとも暮れまでにはまとめたいと思ってきた日本の憲法についての私の思いが、未だまとまらぬ素材のままくるくると頭の中で回転し、醗酵してくれずに気力を削いでいる。
 自国の憲法が欲しいという熱い思いを、自分なりにまとめる絶好の好機であると思わせた最大の動機は、やはりあの東北の大震災であった。どうせ日本を作り直すなら「真に日本らしい日本」を作り、世界に向けて「本当は私たちは戦後直ちにこんな国造りに励みたかった」と大見栄をきれる憲法の前文を考えたかった。この度の大震災で世界の人々は「日本人の心意気」の一端をたまたま知るところとなった。本来誰に教わることもなく「自分は自分のためにだけ存在しているのではない」という抜きがたい心情は、既に民族性の一部として私達の骨肉になっており、逃げてお遍路になったあの政治家を除き、この災害に直面した国民の全てが、自分のできることをそれぞれの方法でやってきた。
 現状の憲法前文は、出来の悪い高校生が内容のない英文を、これ以上ない下手くそな日本語に翻訳したようなものである。日本人は言葉を大事にする民族である。美しい日本語の文章を書ける民族なのである。それがどうだ!現状の憲法前文を今一度読んで欲しい。まるで悪戯をした子供が「心を入れ替えましたので、世界の皆様どうかお許しください」と泣きながら世界に訴えているようなみっともない内容を、拙い日本語で書き綴ったものになっている。GHQに強制された憲法であるが故に、このような文章になるのはやむを得ないのであろうが、国際法では他国にお手製の憲法を強制することは禁止されている。そのため、あたかも日本人がこれを草案したが如き廻りくどい手続きがとられているのだ。
 本来ならばここにきちんと書き込まなければならない事々、例えば世界に例を見ない、万世一系の天皇を誇りとする日本の伝統の特異性、森と水と稲作を尊ぶ神道の清らかさに仏教の温かさを取り入れた日本文化の特異性、日本人の宗教観とも言い得る仲間を思う日本人の心意気、心身の清らかさと自己犠牲を大切に思う潔癖さなど、これらを憲法前文に大和民族の特性として明示して、今後とも国造りの基本理念とすることを詠い上げる必要があったはずである。
 「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」いるので、どうか「われらの安全と生存を保持して」欲しいなどといったみっともないことは言わないはずであり、「われらは、いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」などと世界の諸国にお説教をするような厚かましい民族では決してない。
 幸い今朝のニュースでは、米国のパネッタ国防長官が「日本などの太平洋自由主義諸国の自主防衛力強化を期待する」という米国の新しい方針を述べた。私達も眼を醒まして自分の国を守る気概を持とうではないか。

(2012.1.6)
 
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