素人の大臣は要らない
 
農学博士  渡邉 巌
 何某かの役柄に就くということは、その役柄に求められる経験や知識が優れていることを前提にしている。多々ある役柄の中で最も人々の尊敬を得ているものの一つは大臣であるが、日本の国防大臣が二人も立て続けに無知が原因で論難されるに至ったことは極めて情けなく、日本の安全保障がいかに心許ないかを示している。
ただ単に軍事に関わる事ごとに不案内であるというだけではなく、国民一般が持つ常識さえ持ち合わせていないとなると、「政治家という職業」が如何に安直な職業であり、国民に馬鹿にされてもやむを得ないものであることを示していることになる。
 一川保夫前国防(防衛)大臣は「自分は安全保障については素人であり、これぞまさに文民統制の好例である」と呆れた発言をした。文民統制の意味も理解していない無知な政治家が国防(防衛)大臣になったわけで、情けないの一言に尽きる。文民統制とは、日常の軍事に関わる業務は制服組が行うが、軍事行動の最終的決断は背広組が行うことを示したものであり、軍部の独走を戒めた取り決めである。背広組が軍事に無知であっても良いとは一言も言ってない。最終決断を任されている以上、その道のプロ中のプロでなくてはならないことは云うを俟たない。
 アメリカでは、国民のかなりの割合が兵歴を持ち、兵歴のない人でも軍事の重要性に鑑み、政治家になることを決心した段階で、既に軍事については十分な勉強を済ませている。軍事について知識も経験も無い人間が国防(防衛)大臣に就任できるという日本のシステムは、全くもって言語道断。素人が着任した直後に、この機会を捉えて他国が日本に攻め込んだらどんな事態になるのか、そんなことすら想定できないで任命する首相の資質も問題である。
 この緊迫した国際情勢の中にあって、「自分は軍事の素人だ」と堂々と発言する国防(防衛)大臣の存在こそが日本の弱点であり、物議を醸した後も「辞任」「更迭」の野党や世論の声を無視し、続投のための詭弁を弄する首相はじめ民主党主要議員は、一体国家としてのあるべき姿など考えたことがあるのか。政治家としての自覚のなさと常識のなさを猛省してほしいものである。
 同時に我々国民も国内外の事象に敏感になり自分なりの考えや思想がなければ、政治家に対する支持も批判も出来ない。
 身近な例を挙げると、極めて高価なMDシステムをアメリカから購入することの可否につき国会で議論があった時、MD(ミサイル防衛)システムについてその実態と効果を私は知らなかった。そこでMDシステムについて学び、ついでに知人から学んで得た情報等を友人たちに流した。するとその中の一人から痛烈な非難があった。「渡邉さん!なんで人殺しの道具である兵器について学ぶのですか?」と。
 これも戦後教育の賜物か。この衆愚政治を改めることが先決である。  
                                            
(2012.1.18)

 
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