崩れ始めた日本の米国依存保守の立場
 
農学博士  渡邉 巌

 年始から何かが始まりそうな心のざわめきを感じてきたが、昨日(1月6日)のニュースで、米国のパネッタ国防長官が「環太平洋地域の米国との同盟諸国は、太平洋地域の安全保障向上のため、米国への一層の協力をお願いしたい」との意向を表明した。この発言の前段ではオバマ大統領の「中東からアジア」への兵力シフトが表明されていたので、中国への警戒感増大の表れだと受け止められた。
  常識を超える大幅な国防費の増大を続けてきた中国が、軍事力の面で米国を凌ぐようになるのは時間の問題であり、多分2010〜20年の間に実現すると懸念され始めて久しいが、これが着々と実現されてきているという実感が米国民の間にも広がってきたためだろう。私としては米国のこのような素直な意見表示は極めて好ましいものであり、来るべき変化がここにきてやっと表面化してきたと安堵している。
 このパネッタ長官の語りかけの主たる相手国は、これまでも「安保ただのり」と非難されてきた日本であることは明白だ。沖縄県知事という地方政治の長が、国の外交に関わることで首相という国政の長を難論するという、世界に例を見ない異常事態を目の当たりにしてきた米国の日本政府への不信の念も含まれていたと思われる。
 冷戦終結後20年を過ぎた現在の国際情勢は大きく変化し、米国の一極支配の構造が崩れた。従って、米国は多くの同盟国の協力なしでは自由主義陣営の有利性を確保できなくなってきたのだ。
 中国問題の専門家として、産経新聞に中国経済の脆弱性を主張し続けている石平氏の文章は、中国の内部崩壊はすぐそこまで来ていると読者に強い期待を持たせ続けてきた。しかし、鋼鉄の枠組みさえあれば万人単位の暴動も簡単に抑え込めるという独裁国家の人民支配の実績を積み重ねても中国はご安泰である。氏の予測は何時も私たち読者に希望を持たせ中国に対する楽観的見方を促すような観があるが、氏が言うほど「北京の春」は近くないのではないかと思っている。
 日本の政治家や政治評論家のなかのグループの一つに「米国依存保守」と呼ばれるグループがある。日米安保こそ日本の平和の要であるとする考えには全く同意するが、「従前の安保を継続しさえすれば、日本はこれまでどおり経済活動に専念できる」と考えるのはある種の能天気である。「祈れば平和は得られる」とする左翼系能天気と同程度に現実を無視している。自分の国を本気で守る努力をしない国は同盟国として不適切であり、「日本はもっと本気で自国を守ろうとする意思を固めて欲しい」という期待を機会あるごとに日本に訴え続けてきた米国国防総省関係者の気持ちを読み取ろうとしない。
 日本もこれまでのように中国に、或いはもっとガキに近い北朝鮮に外交上の理不尽な恫喝や無視を受けないようにするためには、自らが核武装するべきであると私は主張してきた。そのことに賛同してくれる友達は日に日に増えてきており、「ああ!日本も少しずつ変化してきている」と嬉しく思っている。しかし、「日本が核兵器を持とうとすれば米国が許さないでしょう」とか、「核不拡散条約から脱退することによる経済的ダメージに、日本の経済界は黙っているでしょうか」といった懸念を示す人々は極めて多い。
 この人達は世界がここ10年でどう動いてきたかを知らない。また積極的に知ろうともしない。知的怠慢な人達が殆どである。中国が長距離弾道ミサイルを開発し、これに核弾頭をつけて西海岸を攻撃することができるようになってからは、米国民の犠牲を犯してまでして日本に核の傘を提供できませんよと誠実な回答をしてくれる共和党議員が増えた。日本の自主的核武装に賛同する誠実な軍事専門家も増えた。「核武装国家に囲まれた日本に、今までどおり非核国家でいるべきだと主張するのは不道徳であり、間違っている。現在の日本には自主防衛力が必要である。日本は立派な民主主義国家なのだから自国の防衛にもっと自信をもってあたるべく自主的核抑止力を持つべきだ」という米国の軍事専門家もいる。今後米国が日本のために核武装をした中国と戦争をするとは考えられない。ありもしない核の傘の存在を臭わすのは不道徳であるという軍事専門家もいる。これ以外にも多数の日本核武装賛成論が公表されている。核武装反対論者は、これらの情報を知ろうとしないだけである。
 核保有国が勝手に核不拡散条約を作り、これに違反すれば経済的国連制裁をかけるという不道徳な国連の規制に怒っている国々は多い。日本も国連の制裁を心配する前に先ず自らが違反してみることだ。今までとは違った国連決議があり得る微妙な段階にきていると言ったら間違いであろうか。
 ともあれ、すぐにでも取り掛かるべきは「非核3原則」を反古にすることだ。この原則は国会決議でもなんでもない。当時の首相の独り言が拾われたものである。実に不用意な発言であった。この発言により日本の核武装の方法論が厳しく制限されてしまった。「自分の国には核兵器はありません。お願いだから日本を核攻撃の対象国にしないでください」と泣いて頼んでも、これを了解してくれるような馬鹿な国家は世界に一つもないのである。
 自分の国は自分で守る。こんな簡単なことに何故国民が躊躇するような情けない国になってしまったのだろうか。今年は1人でも多くの人がこのことを真 剣に考えて欲しいと願っている。
パネッタ国防長官の発言は極めて時宜にかなった発言だと感謝している。
 
(2012.1.7)

 
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