Key Note Chat 坂町

第143回
「冷戦期米ソの日本政界資金工作」

長野禮子 
 
 今回は、ソ連、ロシア研究においては日本を代表する権威と言われる名越健郎先生をお招きして、氏が昨年末上梓した『秘密資金の戦後政党史』(新潮選書)を基に、冷戦期における米ソによる日本政界への資金工作についてお話し頂いた。
 まず、米ソが情報公開している公文書館について、例えば米国では「米国立公文書館」や「大統領の図書館」等、ロシアでは「現代資料保存センター」や国立公文書館、日本では「外交史料館」等が挙げられた。
 次に、外国資金援助の規制では、日本の政治資金規正法(1948年)と、主要国の外国政治資金規制に触れ、その中身の違いについての説明があった。日本でも与野党国会議員らによる受領疑惑が浮上した事も話題となった。
 1945年から始まった米国の対日工作は1972年の沖縄返還、田中首相訪中まで続く。この間の動きとして、米NSC、CIAの活動による戦後の日本を反共の拠点とするための対日政策の実態、例えば自民党結成への働きかけや巣鴨プリズンに収容されていた岸信介への接触もあったことなどの説明がなされた。とは言え、特に岸に関連する史料の多くは依然として機密指定が解かれていないという。
 また、1958年の衆議院総選挙は自由民主党と日本社会党との事実上の一騎打ちとなったが、下馬評での支持率が芳しくなかった岸内閣に対して、佐藤栄作が米国に資金援助要請をしている。この他、1965年の沖縄・地方選挙時には、当時ベトナム戦争を戦っていた米国は、沖縄の政情不安を回避するという目的から、ライシャワー駐日大使が自民党を通じて保守勢力への資金援助を提案したことも明らかになっている。
 続いてソ連の対日工作では、コミンテルンはアジアでは中国共産党や日本共産党の結成を促した他、戦後ヨーロッパでもフランスやイタリアで共産党の勢力を伸ばしていった。但し、戦後のソ連側(KGB、共産党国際部)のテコ入れは日本よりもヨーロッパの方が強く、それは援助額の差(後述)に表れている。
 また、上述の1958年総選挙で振るわなかった日本共産党(1議席)は、それまでの戦略の見直しもあって、以来ソ連と距離を置くようになった。一方、ソ連は1964年頃から日本社会党へ接近するようになった。しかし、その援助は資金援助というよりは日ソ友好貿易協会を通じた間接援助の性格を有しており、売り上げ・利益の一部が日本社会党系の商社へ回されていた。
 最後に米ソによる具体的な資金援助については、日本共産党10~25万ドルに対して、主にフランス、イタリア等には500万ドルを超える資金提供をしており、冷戦の主戦場はヨーロッパであったと言える。また、日本の政党(自民、共産、社会)が資金を受領する際は、岸・佐藤、野坂・袴田、成田・石橋など、個人を窓口として提供されたため、その用途は不明なものも多く、この点は米ソ側の文書にも一切記載が無いという。
 このように、戦後史における両大国の対日政策が個々の歴史的事象に作用していたことまでは分かるものの、当時の国際社会に渦巻く利害の全容解明は容易ではない。戦後75年、情報公開が進む今、各国の研究者の公正な目による分析に期待し、20世紀初頭からの「歴史」を改めて享受したいものである。
 
*新型コロナ感染拡大防止のため、少人数での開催とし、関係者には動画配信とする。
テーマ: 「冷戦期米ソの日本政界資金工作」
講 師: 名越 健郎 氏(JFSS政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授)
日 時: 令和2年8月7日(金)15:00~17:00

第142回
「毅然とした国家であるために」
―日米同盟と対中政策―

長野禮子 
 
 昨今の新型コロナウイルス危機の中、欧米、特に米国のプレゼンスに陰りが見えつつある一方で、中国は強硬な対外姿勢を崩す素振りすら見せていない。このような国際情勢の下、今回は元防衛副大臣の長島昭久氏と前統合幕僚長の河野克俊氏の両氏に、現在我が国が直面する安全保障問題について対談して頂いた。 
 6月15日、河野防衛相はイージス・アショア断念を発表した。近年の北朝鮮による弾道ミサイル発射には、同時発射能力・奇襲攻撃能力を強化し、更に、弾道ミサイルに搭載する核兵器の小型化も実現しているとみられることから、我が国への「脅威」と位置付け、『令和2年度版防衛白書』に記されている。この「脅威」が依然続く中で、両氏はイージス・アショア代替案を早急に議論する必要性を説き、日本の過去の防衛戦略との整合性を取りつつ、日米同盟を基盤に拡大抑止の議論を展開すべきだと述べた。
 また長島氏は、現行憲法の精神に則り、専守防衛は維持するものの、反撃能力の保有が相手側の攻撃を踏み止まらせる抑止力に繋がるという論理を展開。国民からの理解も得られるのではないかと語った。
 ただ、侵略を受けたのちの対応や保有装備も必要最小限にしなくてはならないという見方が一部にあるが、このような考えで自衛隊の行動を日本人自らが縛り付けるようなことは避けるべきだとし、長島氏は改めて専守防衛の持つ意味の再定義、再確定が必要であると訴え、河野氏も憲法改正を含めた議論の重要性を説いた。
 両氏は、数年前までの米国では官民ともにロシアへの警戒感が強かったが、現在は米中新冷戦とも言われる厳しい状況と、コロナ禍による国民生活への深刻な影響もあり、中国に対する強い懸念が広まっているという認識を改めて示すとともに、長島氏は「米政界では超党派のコンセンサスも形成されている。今秋の大統領選挙で民主党への政権交代となったとしても、米国の対中認識及び対中政策に大きな変化はない」とした。
 一方で、尖閣諸島問題に直面している日本国民は、果たして米国民のようなマインドを持っているのかと懸念が残る。
 河野氏はまた、中国が経済成長とともに海軍力増強を重視している点を指摘し、香港、台湾、そして尖閣諸島に対する野心に警鐘を鳴らし、長島氏は、米国が南シナ海での中国の領有権主張を否定した件に触れ、この動きを尖閣諸島まで広げるよう米国に働きかけることや、安全保障上、共有する台湾との連携・調整も可能であろうと話す。
 上述のように今回は長島・河野両氏の活発な議論が行われ、終了後の雑談の中でも、尖閣諸島に中国が大船団を組んで押し寄せた場合、また台風などで上陸せざるを得なくなった場合の日本政府の対応はどのようなものか。コロナ禍における経験で見直される中国とのデカップリングに関する日米の現状や、コロナ対応で成果を挙げた台湾のプレゼンス向上への協力を日米で積極的に行うべきではないかとの意見交換が行われた。
(収録:衆議院議員会館於)
 
*新型コロナ感染拡大防止のため、通常の開催を避け、関係者には動画配信とする。
テーマ: 「毅然とした国家であるために」
―日米同盟と対中政策―
講 師: 長島 昭久 氏(JFSS政策提言委員・元防衛副大臣)
講 師: 河野 克俊氏 氏(JFSS顧問・前統合幕僚長)
日 時: 令和2年8月4日(火)14:30~15:30

第141回
『令和2年度版防衛白書』の説明を聞く

長野禮子 
 今回は参加人数を限定した中での説明会開催となった。
 本年度の『防衛白書』は、昨年よりも早い時期の発行となり、装いも元号である令和の典拠にある「梅」を意識した色彩、デザインが採用されたものとなっている。さらに、新型コロナウイルス感染症に対する防衛省・自衛隊の活動、中東・アフリカに関する節を新設したほか、60周年を迎えた日米同盟など多面的に内容を紹介。本年度より、QRコードによる即時再生可能な関連動画約50本が随所にちりばめられている。
 今年で刊行50周年を迎えた本年度白書の本編は4部構成で、第1部「わが国を取り巻く安全保障環境」、第2部「わが国の安全保障・防衛政策」、第3部「わが国防衛の三つの柱」、第4部「防衛力を構成する中心的な要素など」という内容になった。
 第1部では、地域と国際社会の安全保障上の強い懸念となっている中国に触れ、尖閣諸島周辺での活動に対し、防衛白書では初めて「執拗に継続」という強い言葉で表現している。また、依然として日本への脅威である北朝鮮のミサイル問題やロシアの動向にも注視し、新型コロナウイルス感染症を巡る中国等の諸外国の動きも紹介している。
 第2部では、日本の安全保障に関する基本的な事項を包括的に説明しており、憲法9条における自衛権の解釈、新防衛大綱、中期防、今年度防衛関係費等を記述。
 第3部では、日本の防衛体制、日米同盟、安全保障協力にそれぞれ章を設け、新型コロナウイルスへの対応や日本の大規模災害派遣に尽力する自衛隊の活動を発信している。
 そして第4部では、これら日本の防衛力を支える人的基盤や装備・技術を取りまとめ、最後に即位の礼への参加や、来年開催予定の東京オリンピック・パラリンピックへの協力について紹介している。
 質疑応答では、一時期より遠のいたかに見える憲法改正についての議論や、我が国正面にある現実的な「脅威」にも、依然「専守防衛」を念頭に対処しなければならない日本のお国事情、6月に断念したイージス・アショアの代替案の検討、また特に北朝鮮・中国への「懸念」「脅威」といった表現選択についての質問、図表・画像のより利便性のある使用方法の提案、各国国防費の比較方法等々、読者である国民により分かり易い編集をすべきではないかとの意見が出された。
テーマ: 『令和2年度版防衛白書』の説明を聞く
講 師: 斎藤 雅一 氏(防衛省大臣官房公文書監理官)
日 時: 令和2年7月30日(木)14:00~16:00

第140回
「『イージス・アショア』を考える」

長野禮子 
 
 河野防衛相は6月15日、山口県と秋田県に計画していたイージス・アショア配備断念を発表した。以降、政府筋ではレーダーを陸上に配備し、退役した護衛艦にミサイルを搭載、イージス艦の増勢など様々な案が取り沙汰されている。今回は、元空将の織田邦男氏をお迎えし、この問題について氏の見解、提案を含め詳しくお話頂いた。
 この度「断念」した要因の1つとして、導入予定だった2基7,000億円に加えて改修費が数千億円に上ることが挙げられている。これに対し氏は、最新鋭の機種に拘らず、ポーランドやルーマニアに配備されている1基800億円程度のもので十分であり、配備場所も陸自の基地に限定せず、空自の高射隊基地等も検討することにより、ブースター落下に対する問題を軽減できるとした。その案として青森県の車力、秋田県の加茂、山口県の見島、福岡県の芦屋などを挙げた。
 安価な陸上イージスの既設レーダーサイト、既設高射隊への配備、日本独自の発射前ミサイル破壊能力整備、米軍を補完する共同作戦能力(ストライクパッケージ)整備、新技術研究開発などの充実を提示した。  
 また、敵基地攻撃能力については、政経中枢を攻撃する懲罰的抑止、作戦司令部、軍事通信中枢、ミサイル貯蔵庫などへの攻撃(ストライクパッケージ)、発射前のミサイルを地上で破壊する拒否的抑止が混同されているとし、整理した議論が必要であると論じた。
 拒否的抑止は、先制攻撃ではなく、専守防衛の範囲内である。日本が主体的に行うべきであり、ストライクパッケージ能力についても直ぐには難しいが整備を進めるべきと提言。
 極超音速変則軌道等の新型ミサイルについては、①発射前ミサイル破壊能力整備、②ミサイルシステムのアップグレードもしくは別途開発、③ブースト段階迎撃の研究開発によって対応。飽和攻撃については、日米共同ストライクパッケージ機能を整備する必要性を説いた。
 この度の安倍首相と河野防衛相のイージス・アショア断念をまずは評価し、これを補完、継承する上述の案も含めて最良の方式を検討して頂きたい。
 
*新型コロナ感染拡大防止のため、通常の開催を避け、関係者には動画配信とする。
テーマ: 「『イージス・アショア』を考える」
講 師: 織田 邦男 氏(JFSS政策提言委員・元空自航空支援集団司令官(元空将))
日 時: 令和2年7月20日(月)16:00~17:00

第139回
「展望の見えない日韓関係」

長野禮子 
 
 
  今回は元駐韓大使の武藤正敏大使をお迎えして、史上最悪と言われている日韓関係についての分析と韓国の現状について詳しくお話いただいた。
 文在寅大統領は昨年、自らの支持層に向けた政策を進めてきたが、悉く失敗。米朝の仲介役も果たせず、経済面では30~40代の失業率が増加し、曺国前法相を庇い切れなかったにも拘わらず、高支持率が続いている。この世論調査自体に、韓国国民も疑いを持ち始めているという。
 また、所謂「慰安婦」「徴用工」問題、レーダー照射問題、「ホワイト国」除外に対しても、韓国は一切日本側の主張を受け入れることなく、支離滅裂な理屈を付け日本への対抗手段を講じる一方、中朝露に接近して「レッドチーム」入りを目論む姿勢を続けている。大統領の最重要責務である安保政策を疎かにしている文政権は、非核化よりも38度線の火力が恐いとみて、非核化への意識が強いとは思えない。日韓基本条約や日韓合意も履行されず、自ら国際社会での立場を貶めている韓国に内政外交の安定はなく、ここに文在寅政権の国益無視の本質が見える。
 文政権は今後も、①積弊の清算 ②左派長期政権の樹立 ③北朝鮮との融和 ④非核化――を揚げながら南北統一の方向に向かっていくだろう。これはつまり、保守政権のやってきた業績を全て否定し、親日派の排除も強まることを意味するということか。
 武藤氏は更に、朴槿恵政権は僅かな側近との政権運営で失敗したが、文政権は人事を固めているので守りに強い。立法・行政・司法の三権を全て抑え、既に「独裁全体主義国家」といっても過言ではない状況にある。朝鮮日報と中央日報以外は政権批判をせず、放送局のトップも革新系に全て代え、言論を支配している。ネットメディアも文政権支持派が占めており、そこから追い出された人達が文在寅叩きで立ち上げたネットメディアがあるが、まだ数十万単位で影響力は小さい――と語る。
 展望が開けない日韓関係ではあるが、東アジアの安定のために、日本は決して韓国のこうした動きに棹差すことのないよう努力することが肝心であり、文氏が何を言おうと妥協してはならず、何をするかを見極めることが重要だ――と締め括る。
テーマ: 「展望の見えない日韓関係」
講 師: 武藤 正敏 氏(元大韓民国駐箚特命全権大使)
日 時: 令和2年1月22日(水)14:00~16:00

第138回
「日台の歩みと今後の日台関係」

長野禮子 
 
 
 今回は、前日本台湾交流協会台北事務所代表の沼田幹夫氏をお招きし、日台関係の歩みと将来についてお話を伺った。
 日本と台湾の「中華民国」は1972年の断交以来、外交関係は無くなったが、経済、文化などの実務関係は益々発展している。一方で、特に安全保障や政治面において日本は常に中国の顔色を窺いながらの外交を余儀なくされ、アジアを取り巻く情勢で一番の問題である対中関係をどのように維持運営していくかということが命題となっている。
 台湾はかつて、政権の主要メンバーは外省人で占められ、本省人は李登輝氏他数人しかいなかった。1996年以降、それまで国民党一党独裁下にあった台湾の自由化、民主化に努めた李登輝総統の功績は多岐にわたり、20世紀初頭の大政治家としてその名は今も健在であり、ステーツマンと言われる最後の人とも言える。
 当時の台湾には、国民大会代表という人達がいて、大陸や新疆ウイグル、チベットなどの代表約800名が永久的に国会議員として身分も生活も保障されていた。李氏はその全員に500万元を渡して引退させるという大事業を果たし、教育現場ではそれまでの中国史から正しい台湾史を教える教育改革を実現した。
 一方、1972年以降の日台との覚書(条約に相当)は全部で64本。そのうち馬英九政権時代(2008‐2016)の8年間で28本。今や日台の相互往来は700万人を超える時代となり、オープンスカイ、投資保護、租税、漁業などに関する協定を締結したことは大きく、将来を見据えた基礎となっている。その約半分が馬英九政権時代に締結されている事実をどう解釈するか・・・。馬英九を評価してもいいのではないか――と氏は語る。
 2016年、蔡英文政権誕生。この選挙で民進党は、行政権と立法権を掌握することができた。この結果は日本としても歓迎するものであり、当時、日台の一番の政治的課題であった福島県産の輸入品規制撤廃も間違いなく解消されると思っていたが、結局果たされず、蔡英文という政治家に疑問符がつく状況となった。
 とは言え、昨年6月頃からの香港デモ騒動で蔡英文の支持率は急上昇。1月の総統選挙では、国民党の韓国瑜に大差をつけ、蔡英文は再選された。米国はここ数年で台湾旅行法を作り、F16も売却するなどの支援をする一方、日本へのリクエストである「潜水艦技術を移転」「防衛大学校への台湾留学生を受け入れ」に応える状況は、今の日本にはない。
 氏はかつて李氏から3度、「日本への片思い」の話を聞いたと言う。台湾が台湾であり続けることが、日本の幸福であることに変わりはなく、今後も日米同盟を基軸とした外交政策で進むことが正しい選択であることに間違いはない。その取り組みが具体化しない大きな要因は、依然日中の政治問題が横たわるからである。経済最優先を続ける以上、政治的解決は遠のく。習近平主席の国賓招待断固反対を表明した本フォーラムは、今を好機と捉え、安全保障をも含めた日台関係の更なる深化のために、安倍首相の「政治力」に期待するものである。

 

テーマ: 「日台の歩みと今後の日台関係」
講 師: 沼田 幹夫 氏(前(公財)日本台湾交流協会台北事務所長)
日 時: 令和2年1月17日(金)14:00~16:00