Key Note Chat 坂町

第137回
「米国から見た日本の安全保障、日米同盟は不公平か」

長野禮子 
 
 
 今回は、ハーバード大学シニアフェローとして米国でご活躍の尾上定正氏をお招きし、米国の現状や米国から見た日本の安全保障について、以下4点についてお話頂いた。
 
1、トランプ政権についての認識

 トランプ政権は、トランプ氏の個人的な基準が国家の利害関係に直結していることから、政権に対する米国民の支持は二分されているが、トランプ大統領は根強い支持層を持ち、支持率40%を割り込まない限り再選は固い。一方で、2期目になると更にトランプ流になるので、なかなか厳しい局面が表面化するかも知れない。

トランプ政権の外交・安全保障について、新孤立主義の趣が強くなっている。“America First”は“Trump First”の意味で、矛盾する政策は功罪混交となり、結果的にマイナス面が表面化している。対中政策では強硬に見えるが、意外と習近平と上手くやっているのではないか。
 
2、対中政策について
 Huaweiの締め出しなど、米中争いの実態は技術覇権を巡る争いとなっている。その覇権争いに、否応なく日本も他国も巻き込まれる。日本の部品もHuaweiに買われているが、それをどうするかということになる。
 
3、米韓関係について
 日韓問題が米韓問題に飛び火してきている。現状は、戦時作戦統制権返還の第一段階にあり、これが返還されると米韓関係も変わる。習近平氏、金正恩氏、文在寅氏、トランプ氏の全員が一致しているのが、米軍の撤退だ。敵対的な核武装の統一朝鮮が出現することが一番の懸念であることから、これを阻止しなければならない。
 
4、日米同盟について
 米国の一般人には日米同盟についてはあまり知られていない。日米同盟は第5条でアメリカに依存する代わりに6条で基地を提供する、という非対称の関係で不平等にならないように双方で調整してきた歴史がある。それをトランプ氏は不公平と言い出した。それを是正するには、憲法と日米安保を一体で変えるしかないと思う。アメリカの有識者も危惧し始めている。日米両国の更なる国益調整の必要性が出てきていると言えるのではないか。
 
 今回を持って今年の「Chat」は終了とする。次回は令和2年1月に2回を予定している。今年も時宜に適ったテーマと講師をお迎えし多くのことを学ぶことができた。来年はさらに厳しい年となりそうである。白熱した議論を期待したい。
 
テーマ: 「米国から見た日本の安全保障、日米同盟は不公平か」
講 師: 尾上 定正 氏(JFSS政策提言委員・ハーバード大学シニアフェロー・前空自補給本部長)
日 時: 令和元年12月9日(月)14:30~16:30

第136回
「台湾問題と今後の日米韓関係」

長野禮子 

 今回は台湾訪問を終え東京に着いたばかりのエルドリッヂ氏を約1年ぶりにお迎えしての「Chat」である。氏の台湾訪問の目玉は、台湾総統府訪問と官房長代理クラスとの意見交換だった。意見交換ができたのは有意義だったが、結局は「アメリカはあまり行動しない」「日本は絶対に行動しない」ということで、忸怩たる思いを拭うことはできなかったようである
 そこで期待するのが日本版台湾関係法であると氏は言う。既に昨年の「正論」9月号で発表した「日本版台湾関係法を制定すべき」という氏の記事を取り上げ、今年1月、米国の台湾関係法成立から40年が経たことを踏まえ、日本も台湾関係法を制定すべきであると説く。安全保障における日台関係は正に「運命共同体」であり、JFSSもその立場に立って制定を急ぐべきとの意見は今に始まったことではない。しかし、この期に及んでも親中政治家の影響が強く、台湾重視の政治家の育成が成されていない事を氏は鋭く指摘する。総統府の懸念は、安倍政権で日台関係はより親密になったと感じているかもしれないが、10年前と比較すると全ての面で希薄になっているという点である。聞いた我々も驚いた。
 エルドリッヂ氏は、このほか米国の大統領選の行方や米軍駐留費の問題、韓国問題に触れ、出席者との活発な質疑応答が行われた。

テーマ: 「台湾問題と今後の日米韓関係」
講 師: ロバート D・エルドリッヂ 氏(JFSS上席研究員・元在沖縄海兵隊政務外交部次長)
日 時: 令和元年11月20日(水)14:00~16:00

第135回
『令和元年度版防衛白書』の説明を聞く

長野禮子 

 令和の御代を迎え、初めての防衛白書が出版された。本年度防衛白書の特色としては、昨年度に策定された新防衛大綱、新中期防衛力整備計画の内容について、コラムを交えながら紹介している。加えて、平成の防衛省・自衛隊を振り返る巻頭特集を掲載し、AR動画を活用しながら、当時の映像によって振り返ることが可能となっている。
 本編は、4部構成となっており、第1部「我が国を取り巻く安全保障環境」、第2部「我が国の安全保障・防衛政策」、第3部「我が国防衛の三つの柱」、第4部「防衛力を構成する中心的な要素」など、という内容となっている。
 第1部では、グレーゾーン事態やハイブリッド戦、そして宇宙・サイバー・電磁波領域など、安全保障環境の変化と我が国周辺国の軍事動向に触れている。中でも、中国・ロシアとの戦略的競争が安全保障上の最優先課題であるとの認識を示し、中国に対する抑止を強化する必要性を打ち出している。
 第2部では、新防衛大綱、新中期防、令和元年度の防衛力整備、そして平和安全法制施行後の自衛隊の活動状況について触れている。その上で、第3部は、我が国防衛の柱として、我が国の防衛体制について、グレーゾーン事態、島嶼防衛、宇宙・サイバー・電磁波などの新領域、そして大規模災害への対応を取りあげている。加えて、日米同盟、諸外国との協力体制の重要性を指摘している。
 最後に第4部では、防衛力を支える人的基盤や衛生機能、防衛装備・技術に関する諸施策、そして、地域社会・国民との関りを取り上げ、安全保障問題に対する国民の理解と協力の重要性を述べている。
 質疑応答では、日本の防衛体制が相変わらず専守防衛になっていることや、憲法改正が実現しないことに対する安全保障上の問題点等々、白書作成に当たって、担当部署や防衛省の所感が表れる内容にするのも良いのではないかとの意見が出た。


テーマ: 『令和元年度版防衛白書』説明会
講 師: 川嶋 貴樹 氏(防衛省官房審議官兼情報本部副本部長)
日 時: 令和元年10月31日(木)14:00~16:00

第134回
「トランプ政権は、今」

テーマ: 「トランプ政権は、今」
講 師: ルイス・リビー 氏(ハドソン研究所上席副所長)
通 訳: 古森義久 氏(JFSS顧問・産経新聞ワシントン駐在客員特派員)
日 時: 令和元年10月28日(月)14:00~16:00

第133回
「防衛行政の課題」

長野禮子 

 今回の「Chat」は、2019年7月に退官した前防衛装備庁長官の深山延暁氏をお招きし、日本を取り巻く安全保障環境の変化と日本が直面する安全保障上の課題について、特に防衛装備行政の観点からお伺いした。

1、防衛大綱・中期防衛力整備計画(31中期防)の概要
 現在、日本を取り巻く安全保障環境は主要国の影響力の相対的な変化に伴い、中国・ロシアの影響力の拡大等、パワーバランスの変化が加速化・複雑化している。また、尖閣諸島周辺で活動する中国漁船や2014年のクリミア危機のように、グレーゾーンの事態が長期継続する可能性が生じている。更に、各国は戦争のありようを根底から変える最先端技術を活用した「ゲームチェンジャー」となり得る兵器の開発を推進しており、将来の戦闘様相は予見困難になりつつある。
 このような状況の中で日本は、領域横断的に有効に機能する防衛力として、「多次元統合防衛力」の構築を防衛計画の大綱において定めている。陸海空の既存の領域に加え、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域が焦点になる。これらの領域における日本の防衛力の整備は諸外国より遅れており、一層の強化が求められる。

2、日本の防衛装備政策
 日本は、①技術的優越の確保、②防衛装備品の効率的な取得、③防衛産業の競争力強化が必要である。技術的優越の確保では、民生技術の取り込みや諸外国との防衛装備・技術協力の推進が挙げられる。
 防衛省は、日本の防衛に必要な技術に関する考え方を研究開発ビジョンとして公表しており、民間企業の予見可能性を向上させ、先行投資が可能になるようにしている。また、防衛分野での将来における研究開発に資する基礎研究を公募する安全保障技術研究推進制度を進めているが、公募に応じる研究機関が限定的で大学からの応募は少ない。
 防衛装備品の効率的な取得では、防衛装備品の高額化に伴い、装備調達を最適化するためライフサイクル(構想-研究開発-量産配備-運用維持-廃棄)を通じて管理している。構想段階からニーズを詰めて代替案を分析し、当初のコストから変動があれば見直す。
 防衛産業の競争力強化では、2014年に制定された防衛装備移転三原則により、平和貢献・国際協力の推進や日本の安全保障に資する場合は防衛装備品の移転を認め得ることになっており、「官民防衛産業フォーラム」のような官民一体で防衛装備・技術協力を促進する取組を進めている。防衛装備品の技術基盤の他国への依存はリスクがある。また、防衛装備品の国際共同開発・生産等では情報保全の問題も重要になる。

3、対外有償軍事援助(FMS)
 米国からの防衛装備品の購入は、米国政府が窓口になる対外有償軍事援助の方式を採る。対外有償軍事援助は分割して支払いを行うが、購入費は当初予算から増加する傾向があり、その予算上の圧迫が国内の防衛産業からの調達にも影響を与える。
 日本では、米国国内での調達時期に合わせてまとめて発注したり、大幅な価格の高騰が生じれば購入対象を見直したりするなど、購入費を下げる工夫をしている。

4、おわりに
 諸外国が「ゲームチェンジャー」となり得る新兵器の開発に力を入れ、日本周辺の安全保障環境が変化する中、日本は民生技術を含めた新たな技術を防衛装備品の研究開発に取り込み、厳しい予算の中で如何に国内の防衛産業を強化・維持するかが今後の課題である。日本は防衛装備品の取得を海外の防衛産業の生産のみに頼らず、自主性をもって生産できる体制を維持することが、日本の安全と繁栄を維持するために必要である。

テーマ: 「防衛行政の課題」
講 師: 深山 延暁 氏(前防衛装備庁長官)
日 時: 令和元年9月26日(木)15:00~17:00

第132回
「日米同盟」 ―挑戦と機会―

長野禮子 

 半年ぶりにケビン・メア氏をお招きしての「Chat」である。以下メア氏の主な話を記す。

中国:我が国周辺には中国・ロシア・北朝鮮の脅威が付き纏う。特に尖閣周辺の接続水域を航行する中国海警局の船は連日のように目撃されている。中国は、2030年から35年には、少なくとも350機の第5世代戦闘機を配備する可能性がある。仮にその時点で中国との戦闘を考えた場合、米国だけで対処することは困難であり、日米による共同対処が必要となる。中国の脅威が軍事的、戦略的、経済的にも台頭してきているということの証左である。

香港:6月からの「逃亡犯条例」制定に激しく反対する大規模な抗議活動は、「一国二制度」を揺るがす大問題となっている。10月1日の国慶節(建国記念日)までは、暴力的制圧は控えるが、その後は状況によっては強圧的手段に出る可能性がある。仮に、中国本土の武装警察がデモ参加者に対する暴力的制圧を行った場合、台湾の独立意識が高まることは間違いない。

台湾:香港の大規模デモが「台湾独立運動」に影響し、台湾海峡有事に発展した場合、日米同盟が有効に機能することになる。中国は日米同盟に亀裂を入れたいと常に考えている。米国が台湾有事に対して関与することは、たとえトランプ大統領が躊躇しても、議会が関与を強く求めることになろう。

イラン:辞任したボルトン前大統領補佐官による対イラン政策は正しいやり方であった。米国の核合意離脱は好ましくない。安倍総理がイラン訪問中の6月13日、ホルムズ海峡付近において日本船籍のタンカーが攻撃された。今後、このような出来事に対して日本はどのように対処していくのかはChallenge(難題)であり、日本は中東に石油を依存していることからも大変重要な問題である。日本はこの中東地域における平和と安全に貢献する必要がある。今回の出来事に対しても安倍総理の下では何かしらの貢献が行われるものと信じている。6月20日、イランはホルムズ海峡上空において米軍のグローバルホーク(無人航空機)を撃墜した。これに対してトランプ大統領は何ら反撃をしなかった。この対応は適切ではなく、残念であった。

北朝鮮:今年に入ってから飛翔体(短距離弾道ミサイル等)の発射を繰り返している。これらは国連決議に違反するが、トランプ大統領は問題視していない。その理由は、発射された飛翔体が米国に到達する飛距離を有していないことや来年の大統領選挙に向けた外交成果として、北朝鮮との非核化の合意を達成したいとの意図があるためだ。ボルトン氏の後任は外交安全保障の分野では聞いたことがない人物である。ホワイトハウスは健全な状況ではなく、北朝鮮に対する圧力も低下している。

F-2戦闘機の後継機について:米国の提案は可能な限り日米の最先端技術を用い、最新鋭の第5世代戦闘機を共同開発することである。日米が中国に対して共通の脅威認識(中国は2030年には戦闘機の数量が米国を超える)を持ち、有効に対処する必要がある。F-2後継機は日本のプログラムであるため、その装備は日本が決めることができる。

最後に:以上のことを踏まえ、米国では、安保法制の下で日本の集団的自衛権が認められたため、真の同盟になったと考える人が多くなっている。憲法9条の制約はあるが、従来の盾(防御は自衛隊)と矛(攻撃は米軍)という考え方は変わってきている。これからは何が防衛で何が攻撃かの議論は意味がない。日米同盟はうまく機能しており、米国は超党派で支持している。

テーマ: 「日米同盟」 ―挑戦と機会―
講 師: ケビン・メア 氏(JFSS特別顧問・元米国務省日本部長)
日 時: 令和元年9月24日(火)15:00~17:00