衆院総選挙間近
―原発の増設、廃止の性急な結論急ぐべきではない―
理事・政治評論家  屋山太郎 
 
 総選挙を前に各政党が原発について性急な結論を打ち出している。原発政策は国家経営に関わる重大問題であって、将来の国家像と無関係に脱原発、脱原発依存、継続などと性急に結論を出すべきではない。原発は国内問題のように見えるがNPT(核不拡散条約)も絡む国際問題でもある。それを弁えぬ菅直人氏が事故直後にフランス・ドービルの首脳会議に招かれ、第一スピーカーに指名され、「脱原発、1000万戸の屋根に太陽光パネルを設置する」とぶち上げたのには驚いた。フランス中の新聞、政界の反響は全くのバカ扱いだった。
 ドイツは世界に先駆けて全原発廃止と再生可能エネルギーの普及に舵を切った。ドイツの再生可能エネルギー法(EEG)では買い取り価格が欧州の電力取引料金が平均値を上回る場合は各家庭や事業所が負担するというものである。あまりにも高価な電気料を企業が払うことを義務づけると、国際競争に敗れるとの配慮からだ。ところが急速に普及させるために高い買い取り価格を設定したために、来年度の負担金が今年比で5割も増え、年間家庭で6千円も負担が増えそうだという。
 菅内閣が設定した太陽光発電1キロワットアワー42円で、太陽光パネル産業はどうなるだろうか。大量生産でコストが下がって、買い入れ価格が引き下がるのか。ドイツの場合は7割のパネルが中国産になった。法外な料金を払って中国企業を儲けさせるだけに終わっているのだ。
 自民党が3年の経過を見て再生エネルギー企業の動向を見てから決めるというのは妥当だろう。
 国際エネルギー機関(IEA)のマリア・ファン・デル・フーフェン事務局長は「日本の2030年に原発ゼロを目指す」との野田内閣の方針に「再生可能エネルギーで原発をどこまで代替できるか。化石燃料の輸入増や電気代の上昇による国民負担、地球温暖化対策の目標達成が難しくなることもよく考えよ」と警告している。
 日本が脱原発の方針を米国に伝えた時、米国の反応は実に冷たいものだったという。日本が原発を造れば、使用済みの核燃料の再処理事業は継続するが、そこから生まれるプルトニウムが国内に大量に溜まっていく。核不拡散のために厳しい国際管理が行われているが、その“優等生”が日本だった。国際的には福島第一原発の1号機の事故は人災だと見做されているのだ。
 原発を世界中で廃止するという流れならば、日本の“独断”もそれほど非難はされないだろう。しかし世界的規模で原発は増設傾向にある。とすれば日本が世界第一級の原子炉を造って輸出する方が害を減少できる。廃炉にしても万年の単位がかかる。優秀な技術者の養成は国家的な責務である。
 取り敢えず電力会社の総括原価方式をやめさせ、発送電分離の形態に変更する必要がある。
                                                                                                                                           (11月28日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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