米中重視、日本軽視外交の韓国
―「反日」だけで支持率上げる不安定な国家運営―


理事・政治評論家  屋山太郎 
 
 朴槿恵韓国新大統領の就任後の行動を見ると、東アジアは米、中で仕切ることになったという判断で割り切っているようだ。日韓首脳が会談する機会を敢て避け、米国を訪問したのち今月末には中国を訪問するという。
 日韓問題については慰安婦問題を蒸し返し、米国では「歴史問題」として取り上げて、日米離間を図っている。日米韓にとって、当面の脅威は北朝鮮の核、ミサイルであったはずだ。北朝鮮に対処する場合、日本の基地から米軍が発進するのは不可欠で、これは日米安保条約の事前協議の対象となる。それを前提に日韓間の軍事情報の交換が必要だが、韓国は無視し続けている。
 朴槿恵氏は何を考えているのだろう。
 朝鮮半島は1000年もの間、中国の完全なる属国だった。そこに導入された儒教によって朝鮮は上から下への序列を重んずる強烈なタテ社会になった。朝鮮問題の第一人者、古田博司氏によると、韓国が許せないのは下に位置する日本人に対して慰安婦が奉仕したことだという。それは「日帝36年」の時代にも遡る。それ以前、朝鮮半島は高句麗、百済、新羅と勃興しては潰され、中国の属国となっていた。沖縄などは琉球王国を名乗ることを許されたが、朝鮮は中国の政府の出先機関が置かれたという。36年の日本支配に対して韓国人は憤慨するが、それ以前の中国支配に対しては文句を言わない。朝鮮戦争で中共軍が雪崩れ込んできたのにも抗議しない。
 その理由は韓国人(北朝鮮)に骨の髄まで事大主義が染み込んでいるからだ。中国に文句を言わないだけでなく、米国にも従う。アジアの支配者は米・中になるのだから、日本は排除しても構わない。むしろ、日本より韓国が上に立つべきだと考えているのだろう。その手段に「歴史問題」が使われている。その点、米国内に安倍内閣の「右寄り」批判が出てきたことは、韓国にとっては成功だ。
 今の韓国では国民の反日感情に沿った政治でなければ支持されない。朴槿恵氏の使命は大企業中心社会から貧富の格差を縮める社会を目指すことだが、円安・ウォン高で経済の舵取りは容易ではない。李明博前大統領も“経済大統領”と言われ、日本に未来指向を呼びかけた。しかし事態は全く好転せず、最後に竹島上陸で人気を取り戻そうとした。
 朴大統領も訪米して、オバマ大統領との会談、議会演説で「歴史問題」を訴えた。首脳が他国に出掛けて、告げ口や悪口を言うことは異例中の異例の出来事だ。この一事で日本人は朴氏の人格を疑うが、韓国では違うらしく、朴氏の支持率がグンと上がって50%を超えた。
 次に中国を訪問すれば韓国の事大主義が完結するのだろうが、懸案の経済の見通しは全く立っていない。儒教国家の最大の欠点は人や国をタテの序列でしか見ないから、真に仲の良い友人や国家を持てないことだ。
 韓国経済は沈没の淵にあるが、日韓間のスワップ協定は切れたままでいいのか問いたい。

                                                                                                                        (平成25年6月12日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
 Ø 掲載論文  
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