アベノミクスの“金融改革”始まる
―他力本願的金融政策の見直し、日銀法改正へ―
理事・政治評論家  屋山太郎 
 
 この20年間、暗闇の中で逼塞していたような日本経済は黒田東彦日銀総裁が打ち出した「質的・量的金融緩和の導入」によって一気に光を見出した。東京市場では日経平均が一時600円近く跳ね上がり、英紙フィナンシャル・タイムズは「日本で金融革命が始まった」と評した。アベノミクスの親・安倍晋三首相は「従来の金融政策とは次元の違う大胆な金融緩和を行って、市場に対し明確なメッセージを出した。正に期待通りの対応をしていただいている」と評価した。
 安倍氏がアベノミクスを語り出した頃、日銀の現職総裁だった白川方明氏は「それはやってはいけない最上位」と語り、インフレ目標2%を説く安倍氏を強く牽制した。これに対して安倍氏は日銀法の改正をちらつかせて「クビを切るぞ」と脅すやり取りになった。
 1942年に制定された日銀法は戦時立法で大蔵大臣(当時)が日銀総裁を罷免することができる仕組みになっていた。このため「お金を刷ってファイナンスを行う」ことも不可能ではなかった。バブル期に財政が逼迫してくると財政需要を抑えず金融を動かす場面になり兼ねなかった。このため1997年に日銀法を改正し、財・金分離を果して日銀は独立帝国になった。この日銀には常時、大蔵事務次官が天下り、日銀総裁は生え抜きと大蔵次官OBの交代人事となった。財・金分離と言いつつ、政治家を遠ざけた形だが、実は大蔵(財務)の一省支配が日銀にも浸透していった。
 日銀は戦後のハイパーインフレを経験したせいで、インフレ退治の優等生とも言われる。日銀の打ち出す政策はゼロ金利か金融緩和かに限られ、およそデフレ対策に無策だった。それが平成不況を招いた。
 在野にはデフレ脱却論も溢れていた。このため日銀は12年2月には「中長期的な物価安定の目途」として消費者物価指数の1%上昇という数値を示したが、ポーズに過ぎなかった。日銀内だけしか通じない隠微な理論が日銀審議員に伝播し、結局、何もしないで、米国かEUの景気が回復するのを待つという他力本願に陥ってしまったのだ。
 昨年、安倍氏が自民党総裁選を制するとアベノミクスへの期待が動き出し、年が変わった頃には巷の話題が一変した。シケた話題が消え株価上昇や儲け話が主題となったのである。安倍氏のアベノミクスの筋書きの第一歩が黒田日銀総裁の実現だった。
 黒田氏が打ち出したのは「市場に流すお金の量(マネタリーベース)を2年で過去最大となる130兆円分増やして規模を2倍にする」というもの。01〜06年まで続けた量的緩和の4倍もの量である。札の増刷に近い手法に外国からは通貨戦争になるという懸念も聞こえる。
 しかしこれまでの円高は、ドルやユーロを刷り過ぎた結果もたらされたのではないのか。
 白川氏は退任の記者会見で「人々の期待に働きかけるのは良くない」と言っていたが、全く期待を示せない人物は早く去った方がいい。

                                                                                                                        (平成25年4月10日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
 Ø 掲載論文  
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