理事・政治評論家
 屋山太郎



  

「財務省内閣と云われる所以」

 野田内閣はこの1ヶ月で政治家と官僚の関係を漸く正常化したようだ。野田氏は自民党時代の「官僚内閣制」にひとまず戻ることで官僚が抵抗するのをやめさせた。その結果必然的に「財務省内閣」と呼ばれることになった。
 財務省は戦前戦中の内務省の如く、官僚中の官僚と云われ、官庁は財務省に陳情はするが楯つくものはいない。毒舌で知られる片山虎之助氏は9月29日の参院予算委員会で「野田内閣は財務省の勝栄二郎事務次官の言いなりになって増税路線を進める『直勝』(直轄)内閣だ」と批判した。
 勝栄二郎事務次官は近年、出色の次官と知られるが、彼の実力の源は人事の妙だと云われる。総理秘書官には太田充(83年入省)を送り込み、蓮舫行政刷新担当相には吉井浩(88年)、自見庄三郎金融担当相には近藤英樹(88年)を張りつけた。彼等は財務出身の古川元久国家戦略担当相の同期で意思疎通は自在だ。
 一方、藤村修官房長官秘書官には宇波弘貴(89年)、安住淳財務省には小宮義之(89年)をつけた。これだけ勝人脈を張り付けておけば情報の入手に加えて財務省の“意向”の伝達も万全だ。勝氏はマスコミ工作も巧みでご説明と称して、洗脳する能力は抜群と云われる。こういう直勝内閣で野田佳彦氏がはまって行ったであろうことは想像に難くない。
 野田氏は熟慮してから動くタイプの政治家だから当初@まず政・官の関係を正常化するAしかる後に野田色を鮮明にしていくものと期待していた。しかし現在の様相では徹底的に財務省に押しまくられるのではないかと危惧する。財務省の悲願は震災復興のための増税、続いて年金・税の一体改革(消費税)である。野田氏は勝次官の悲願が乗り移ったように増税に突進しているが、あまりにも単細胞ではないか。
 財務省は増税まっしぐらの一方で与党民主党が仕分け作業で前年に凍結と決まった朝霞の公務員宿舎の工事を始めた。10年末に野田氏が財務相時代に着工の許可を出したという。野田氏は非難を浴びて着工を5年間凍結することになった。額は120億円だが、11.2兆円の増税をしようという時に、公務員宿舎に支出するという発想は度し難い。5年凍結でも官僚には痛くも痒くもない。そもそも公務員に宿舎を提供している国があるのか。役職上役所の近辺に住む必要のある役人には民間住宅を借り上げれば良い。
 民主党は国の出先機関の原則廃止を掲げて地方合同庁舎の建設凍結を決めた。政権交代後に22ヶ所の凍結を決めたのだが、12年度予算には4ヶ所の建設費が計上され、来年度予算の概算要求に更に4ヶ所が盛り込まれた。計8ヶ所の総工費は600億円にも上る。
 地域主権確立のために出先機関廃止は与党民主党の党是と云われるものだ。野田氏に増税させようというなら、財務相はせめて、宿舎や合同庁舎の建設を控えるのが正常な取引だ。これでは野田氏がやらずぶったくりになっている様相だ。
 東北復興庁建設に際して将来の東北州の設立を展望してはどうかとの意見があったが、一顧だにされなかった。
 野田首相は国家公務員の給与を2割下げる公的の一環として11年度総人件費の引き下げ幅を7.8%とする給与削減法提出した。一方人事院は0.23%の引下げを勧告している。首相の方針だと2900億円浮く勘定だが、スト権付与が抱き合わせになっていて成立は困難。野田氏は役人に騙されっ放しのようだ。
                 
                                                                                                                                     (10月12日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
 Ø 掲載論文  
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