「税と社会保障の一体改革」について、野田佳彦首相と自民党の谷垣禎一総裁は大筋で合意に持って行ける地点まではきているようだ。それがすんなり行かないのは与野党を対立させるいざこざが山積しているからだ。国民のために、今何が重要かを考えれば、税と社会保障の一体改革を解決するしかないだろう。
ここに至るまで財政赤字を積み重ねてきたのは自民党政権下のことであり、今自民党がその解決への足を引っ張るのは公党としてあり得ない所業だ。民主党が消費税の増税までやるというのなら、自民党は積極的に協力するのが筋ではないか。
しかも社会保障制度などは政権が代わる度に制度が変わるようでは、国民は安心して生活ができず、将来の人生設計も立たない。北欧諸国の社会保障制度は常時、与野党が協議を重ねて安定的になったと言われる。
こういう大局的テーマでテーブルに着くことを妨げているのは野田氏の側から言うと、“小沢問題”だろう。小沢氏は「増税は約束していないからするべきでない」と最もらしいことを言うが、政治は予定通りきっちり動くものではない。小沢氏は鳩山政権の幹事長としてどれだけマニフェスト実現に力を貸したのか。首相は小沢氏を切るしかない。
防衛相、国交相の問責問題について野田首相は何を庇っているのか。防衛相は無知、無能だ。前田国交相は自民党のトンカチ行政を“完全復活”させ、民主党路線を裏切った。二人を更迭するのは当然ではないか。
違憲状態にある一票の格差問題は当面、自民党がいう「0増5減」を実行するしかない。中選挙区の復活とか連用制の採用は選挙制度の根幹に関わることで、拙速は慎むべきだ。公明党を与党に引き込む術として連用制が持ち出されているようだが邪道の極みだ。
谷垣総裁が話し合いを渋っているのは、9月の任期前に話し合い解散に持って行きたい腹だと言われている。話し合い解散の確約が得られないまま、ずるずると9月を迎えれば“谷垣再選”はあり得ない。谷垣氏は総裁継続という私欲を捨ててこそ、再選の可能性が生ずると心得るべきだ。
民主党の支持率はつるべ落としで落ちている。にも拘らず、その分自民党の支持率が増えるわけではない。国民の間には民主、自民の既成政党に対する不満が膨満している。
産経・フジテレビの首都圏だけの支持率調査(5月6日放送)によると民主党12.4%、自民党18.2%で両党合わせて30%そこそこである。5月1日のFNN(フジニュースネットワーク)の合同世論調査では「大阪維新の会」が国政で影響力を持つ議席をとることに「期待する」が59.6%を占めている。
この傾向は官僚の意のままに政治を続ける民主・自民両党に対して、橋下徹式の独自路線で政治を行う第三極が台頭してくるのは当然だ。今や前に進むしか道のない増税路線を仕組んだ官僚内閣制の終焉と云えるだろう。
(5月9日付静岡新聞『論壇』より転載)
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