理事・政治評論家
 屋山太郎



  

橋下「維新の会」圧勝
大阪発―地方行政改革のうねりが起こる
 
  大阪府知事、大阪市長のダブル選挙で、橋下徹氏率いる「維新の会」が圧勝した。橋下氏は4年前、府知事として登場し、国の直轄事業負担金について「ボッタクリバー」と決めつけて、府の支出を拒否した。5兆円を超える借金の府財政を「優良会社」に立て直した。日教組や府の職員労組とも対決した。 
 橋下氏はたとえ「独裁者」と言われても、市民が推してくれると感じていた。何故なら「官」に対する違和感を共有していたからだ。 
 国政が国家公務員に壟断されているように、府政も市政も地方公務員、言い換えれば府、市の職員に壟断されていた。橋下氏は市長当選後の会見で「これまで行政部門が政治をやっていたが、これからは選ばれた政治家の言うことを聞くべきだ」「民意を無視する職員には去って貰う」と厳しく述べた。 
 橋下氏は「意味が解らない補助金がいっぱいある。見直しで出てきたお金は有効に使う」とも述べた。言わずもがなの弁だが、実態は二重行政の無駄、地方が支出するいわれのない支出などワンサとある。公務員である職員が勝手に府政をやっていた。東京も大阪も同じである。だからこそ政治経験のないタレントでも勤まったのである。 
 石原慎太郎氏は都知事に初当選した時、「青島さんは退屈だと言っていたが、やることはヤマほどあるじゃないか」と驚いたものだ。職員が知事の答弁も議員の質問も書いていたのが、東京や大阪の議会の実態だった。 
 石原知事が都職員を指揮し、橋下氏も自らが府政を取り仕切ることになった。県庁や市の職員の力が強いのは、中央集権制が強かった時代の名残りだ。国政でも議員より中央官僚の力の方が強い。 
 公務員制度の改革や地域主権が叫ばれているのは、国政が中央集権時代の官僚内閣制さながらになっているからだ。 
 愛知県と名古屋市の「名古屋都」構想も新潟県と新潟市の「新潟州」構想もある。いずれも地方分権を望む声と見るべきだ。 
 「地方分権」という言葉は30年も前から叫ばれ、道州制の分割案までまとまっている。民主党内閣は「国の出先機関の原則廃止」をすでに閣議決定しているが、何のアクションも起こしていない。中央官僚が地方支配の権限を離したくないから、出先機関の廃止に反対しているのだ。野田内閣は出先機関の廃止と言いながら、庁舎の建設許可を出している。財務省が「やれ」という増税路線をひたすら歩きながら、カネは一銭もかからない出先機関の廃止も年金の官民格差是正も無視している。野田氏自身の発想がないから「財務省内閣」と言われるのである。 
 官に政治家が押し込まれているように見える現象と橋下大勝は決して無縁ではない。 
 橋下氏の言う府市一元化はこれまでのような何もしない大阪より、大阪を活性化する可能性がある。地方を均一に統治するというようなやり方こそが、日本全体の活性化を奪っている。東日本大震災に当たってさえ、官僚は「特区創設」を嫌がった。 
 10程度の道州制に分け、大幅な権限を持たせれば、地方によって知恵の差が出てくる。住民は住み易い場所を選んで、住み着くようになる。府市一体のためには地方自治法の改正が不可欠だ。中央政党がこれに応えなければ次の総選挙には「維新の会」が独自候補を立てるという。何かが変わる予感だ。

                                                                                                                                     (11月30日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
 Ø 掲載論文  
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