理事・政治評論家
 屋山太郎



  

橋下政治に見る真の『政治主導』が国を変える
 
 新しい大阪市長になった前大阪府知事・橋下徹氏に大阪市民は現職だった平松邦夫氏を20万票も上廻る約70万票もの票を与えた。橋下氏はポッと出てきたタレント政治家とは違う。大阪府知事としての実績を示し、自らの思想に共鳴する「維新の会」を立ち上げた。府議選で新党であり、地域政党である「維新の会」は過半数の議席を獲得した。府民、市民は橋下氏の何に共感し、支持しているのか。
 橋下氏は政治の真髄を見抜く力、課題を片づける手法を心得た近年珍しい政治家だ。府知事に当選したのは2008年2月で、すでに予算案はできていたが、それを7月までの暫定予算に切り換え、7月以降の予算を徹底的に切り詰める作業に取り掛かった。当時大阪府は5200億円ほどの特別会計の基金からの借り入れがあったが、ハコモノを28潰し、冗費、職員給与を切って、全額返済の目途をつけた。政治の基本は財政の健全化だと言う。
 反発する職員との闘争は激しいものだった。それがのちに「職員基本条例案」が不可欠と信ずる根拠になった。今回の市長当選に当たって橋下氏は「政治家(市長)の言うことを聞けない職員には市役所から去って貰う」と断固として述べた。橋下氏の考え方は、政治家は選挙で選ばれた代表であって、その政治家の作った法律・条令を執行するのが府・市職員の役割だ。どうすればうまく実現できるかを考えるのが官僚だと言う。府職員との激しい討論を経て、橋下氏は、官僚が政治家の意向を無視する態度に驚いたと言う。
 次に橋本氏は「全国学力調査テスト」の結果を市町村別に公表すると宣言した。このテストは公表すると学校現場に過度な競争をもたらし、不当な学校序列化を招くとして文科省が公表を禁じていたものだった。橋下氏はこの方針に猛然と食いついて、「文科省のバカ」「くそ教育委員会」などの発言を通じて全国レベルの論争に持ち込み、結局テストは公表されることになった。
 すると全国的に学力向上の努力が始まった。「心配事を並べ立てるのが行政。それをリスクを取って打ち破るのが政治家の仕事だ」と橋下氏は言う。教育について橋下氏は「基本は読み、書き、そろばんと年長者に対する態度を教えることで十分」と言う。知事と教職員との団交の場がテレビ中継されたが、政治家である知事に対して教職員たちの発言があまりにも礼を失するのに呆れた。
 この体験がのちに「教育基本条例案」に結びついたのだろう。職員条例、教育条例に共通するのは昇給の年功序列を廃止し、能力によって昇給・昇格を行うということである。
 この年功序列の廃止、校長や局長の公募制導入はこれまでの公務員に対する常識を打ち破るものだ。実は安倍内閣で始まった国家公務員制度改革基本法は同じ思想に基づいて制定されたものだが、官僚の抵抗で国家公務員制度改革法は全く骨抜きにされた。
 教育、公務員のあり方はまさに国政の中心課題でもあり、地方からの挑戦が見ものだ。
                                                                                                                                     (12月07日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
 Ø 掲載論文  
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2012.09.19  2030年代に原発ゼロにする」  ―民主党の『論理破綻』は続く―
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2012.08.22  竹島・尖閣の領有権をめぐる中韓の蛮行―歴史的経緯と国際法に則り従来の穏便外交のツケを解決せよ―
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2012.08.01  次期総選挙に向けて蠢く政界再編の動き
2012.07.25  大津市中2生徒の自殺をめぐる教育委員会の対応
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2012.06.13  大飯原発再稼働   ―危機を乗り越えた野田首相、橋下市長の英断―
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2012.05.16  未だ国民不在、党内融和に専心する民主党   ―党運営破綻に棹差す小沢・二閣僚問題の棚上げ―
2012.05.09  期待される第三極の台頭  ―自民・民主による官僚内閣制の終焉―
2012.05.02  今、国民が期待する政党・政治団体とは  ―現実から乖離し続ける自民・民主の政権交代―
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2012.04.18  橋下旋風に乗り損ねた「石原新党」  ―根拠薄弱だった亀井氏の新党構想―
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2012.03.14  民間団体に巣食う巧妙な天下りシステム
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2012.02.29  橋下「維新の会」大阪を変える ―教育基本条例・職員基本条例、そして教育委員会廃止へ―
2012.02.22  目先のテクニックで国民を愚弄する勿れ ―公務員制度改革・選挙制度改革に真摯に取り組め―
2012.02.15  「不退転の決意」で臨むは消費増税の“前提”である
2012.02.08  今後のエネルギー政策の指針を示せ
2012.02.01  「石原新党」立ち上げの障害  ―ハードル高過ぎる3氏の政策、イデオロギーの壁―
2012.01.25  「宰相の資質を備えよ」  ―官僚支配からの脱却を急げ―
2012.01.18  内閣改造  ―原理主義者岡田氏登用が功を奏するか―
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2012.01.04  野田首相、忘るゝべからず   不退転の決意で臨むは「公務員制度改革」
2011.12.28  国民の知らない「公務員の常識」―「大阪維新の会」がその常識をぶっ壊す―
2011.12.21  不毛に終わった日韓首脳会談 ―いま、東アジアは間違った歴史認識に振り回される時期ではない―
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2011.11.30  橋下「維新の会」圧勝   大阪発―地方行政改革のうねりが起こる
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2011.11.09  TPP参加は本当に日本農業の衰退を招くのか―単純な反対論で国益を失ってはならぬ―
2011.11.02  野田流政治手法を読む ― 時至らば動く ―
2011.10.26  TPP参加で我が国の農地法・農協法の見直しをせよ
2011.10.19  衆院の選挙制度改革―各党の思惑―
2011.10.12 「財務省内閣と云われる所以」
2011.10.05 「官僚支配の政治から脱却せよ」
2011.09.28 「野田首相の政権運営の手法とは」
2011.09.21 「野田政権の手腕とは」
2011.09.14 「野田内閣は行革より党の一体化を狙う」
2011.09.07  野田新政権 ―政権基盤を整えてスタート―
2011.08.31 「野田新政権の国造りに期待する」
2011.08.25 「民主党代表選挙の行方」
2011.08.17  直ちに「公務員制度改革」に着手すべきだ
2011.08.10  菅首相の「日本窮乏化政策」
2011.08.04  菅首相の「国家衰亡を加速する『脱原発』と対北関連献金疑惑」
2011.07.29 “市民派”首相の脱原発路線
2011.06.22  公務員制度改革の実行なくして消費税10%はない」
2011.06.21 「民主トロイカ体制の終焉」そのU
2011.06.08  民主党「トロイカ体制の終焉」
 

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