理事・政治評論家
 屋山太郎



  

衆院の選挙制度改革
―各党の思惑―

 衆院の選挙制度改革が待ったなしである。衆院小選挙の一票の格差が最大で2.30 倍になった09年の衆院選について最高裁は今年3月に「違憲状態」と判断し、その原因となっている「1人別枠方式」の廃止を求めた。「1人別枠方式」というのは衆院300議席を配分するに当たって、まず各県に1議席を配分し、残りと人口比で配分するやり方だ。この方式でやると必然的に1対2倍以上の格差が生じやすい。
 このため民主党は選挙制度改革のための協議会設置を各党に提案、自民、公明両党が同意した。民主党と自民党の思惑は、1人別枠方式をやめ、素直に小選挙区300議席を各県に人口比で割り振る方式を考えているようだ。民主党はその際なお格差が2以上になる選挙区を調整し「59減」或いは「6増6減」を主張、自民党は「0増5減」を主張している。その上で議員定数の削減要求にも応えるため民主党は比例区180のうち80を削減、自民党は30の削減を打ち出している。
 民主、自民両党とも現行の小選挙区比例代表並立制の根幹は変えたくないのが基本姿勢だ。これに対して公明党は小選挙区比例代表連用制ないし併用制への転換を求め、定数削減するなら300の小選挙区部分を削減すべきだと主張している。「連用制」は比例代表では小選挙区の議席が少ない政党ほど議席が得やすい配分方式をとるもの。「併用制」はまず総得票数に比例して議席数を配分し、小選挙区で得票数の高い候補者から順次当選とする。「連用」「併用」共に個人名と政党に各一票を投票する。
 民主、自民の思惑は限りなく単純小選挙区制に近いのに対して公明党案は比例制への抜本改革だ。公明党は小党に有利な制度で、みんなの党は議席を180減らして300議席の比例代表制を主張。共産党、社民党、国民新党も比例重視の制度を主張している。
 現行の小選挙区比例代表並立制はここ二回の総選挙で二大政党制の形を整えてきた。民主、自民の基礎議席が各100200議席が自民に行ったり、民主にきたりといった姿だ。このため議席差をもっと狭めるような方式に変えるべきだという意見が民主、自民両党内にかなり存在する。また「風」頼みの選挙では大政治家が出ないから、いっそ昔の中選挙区制度の方が良いという論も出ている。
 しかし中選挙区制度時代は派閥が跋扈し、金権政治の温床となった。だからこそ小選挙区制を主体にした選挙制度にして、「政権交代のある」選挙制度に切り替えたのである。
 公明党は当初、「1区3人制度」を提案していた。これだと民主、自民が各1を取り、残りを公明党が取れるとの思惑だったが、風頼み選挙が更に激しくなった場合、3人区に民主か自民がそれぞれ2人を立てる場合も十分考え得る。このため公明党は「中選挙区案」を引っ込めて連用制か併用制を提案することにした。
 公明党は比例を重視した制度にすれば、中選挙区時代に得ていた50〜60議席程度は確保できるようになると考えているようだ。
 小選挙区制では大政治家が出ないと結論づけるのは尚早だ。まだ二大政党による総選挙は2回しか行われていないうえ、イギリスでは保守党のサッチャー氏のあと労働党のブレア氏ら大政治家が次々と生まれている。政治家の質は政党が候補者を公募するやり方に問題がある。自民党では2世3世、民主党では子分を選ぶ小沢方式が問題なのだ。
                 
                                                                                                                                     (10月19日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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