アベノミクスへの期待
―規制緩和・TPP参加など日本経済の体質改善政策が必要―
理事・政治評論家  屋山太郎 
 
 安倍晋三首相が打ち出したアベノミクスは大発会の盛況を見る限り、順調に滑り出したように見える。首相は初会見で「ロケットスタートで日本経済を回復させたい」と述べたが、その成否を左右するのが、首相と財務省との関係だろう。
 民主党政権時代、前原誠司国家戦略担当相も「1%程度のインフレ目標を取れ」と金融緩和を求めていたが、日銀は聞く耳を持たなかった。勿論、日銀の後ろにいるのは財務省だ。安倍氏に「内閣布陣に当って何が最も難しかったのか」を聞いたところ、即座に「財務省の圧力をいかに押えるかだ」と答えたものだ。
 首相秘書官や内閣官房に配置される役人は経産省有利の比率になっているが、安倍首相が最も重視しているのは、「経済・財務諮問会議」の布陣だろう。甘利明経産再生担当相が同会議を主宰することになっているが、政策の最終決定権者は首相である。財務省には口を挟ませないと固く心に決めているようだ。
 鳩山政権が瓦解したのは普天間問題だが、国家戦略局の設置を立法化できなかったのが、躓きの始めだ。同戦略局に「財政の基本方針を定める」役目を持たせ、財務省に君臨する予定だったが、財務省勢力に一蹴された。安倍氏も同様の構想を持っていたが、序盤で財務省と喧嘩するのは得策ではないと、小泉・竹中時代の「経済財政諮問会議方式」を選択した。
 安倍氏はなぜ財務省をそれほど嫌うのか、財務省は経済を動かす日銀や金融庁、財界までをも押え込んでいる。財務省の権力がいかに強いかは、野田佳彦、谷垣禎一の両与野党党首に消費増税を立法化させたことで瞭然だろう。消費増税については民主党内にも自民党内にも強い反対があったが、官僚は委細構わず財務省路線に従わせたのである。
 安倍氏が「2%インフレ・ターゲット論」を提唱した際、経団連の米倉会長は「日銀の独立性を犯す」と反論した。財界にも財務省の洗脳が動いているのだ。
 アベノミクスの一段目の金融緩和は、白川日銀総裁が下りたせいで、直ちに株価に反映された。白川氏が「ノー」と言えば、首相は日銀法を改正して総裁のクビをすげ替える腹だった。
 二段目は財政政策で、大型補正に引き続く本予算で安倍対財務省の戦いが始まる。
 三段目が成長戦略だが、これまでどの内閣でも打ち出されたのは農業と医療分野の構造改革である。このどちらも自民党の票田だが、ここにメスを入れなければTPPへの参加も無理だ。ということは自ら世界貿易の圏外に立つということに他ならない。パナソニックは8万人で8兆円を稼いでいたが、日本農業は250万人で8兆円しか稼いでいない。せめて100万人で100兆円を稼ぐ構造改革をやらねば、誰が農業者の年金を払うのか。医療関連機器の輸入は毎年3兆円を上回る。医療機器や薬品に弱いのは、規制が多過ぎるからだ。

                                                                                                                        (平成25年1月9日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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