Key Note Chat 坂町

第181回
米前政権中枢が語る米大統領選の行方と日米同盟

   今回はJFSS顧問の古森義久氏(麗澤大学特別教授)のご紹介により、フレッド・フライツ氏とスティーブ・イェーツ氏をお招きした。両氏は2021年、ワシントンD.C.に拠点を置く研究機関として開設された米国第一政策研究所(AFPI)の外交政策、中国問題の専門家で、同研究所には前政権時代の閣僚が数多く所属していると聞く。
 両氏は5月の頼清徳新政権発足直後の台湾訪問の後、日本に立ち寄ったところで、日程調整して下さり実現したものである。他に外務省を始め各メディアの取材を受けるなど、タイトなスケジュールをこなしたと聞く。現在、第二次トランプ政権発足に向けて、世界規模の安全保障についてどのようなアプローチを取るべきかを研究していると言う。
 以下、両氏の発言を簡単に記す。
 
 「アメリカ第一のアプローチ」(America First approach)について
 トランプ氏が現役時代からよく口にしている「アメリカ第一のアプローチ」(America First approach)は、専門家と称する人達がよく言う「アメリカ孤立主義」ではなく、海外への派兵や外国との条約交渉といった対外的な場面で常にアメリカ国民の利益を第一に考えるということであり、当然同盟国との関係は重視される。但し、同盟関係を維持するためには同盟国が「公正な負担」に応じるかが重要であるとし、特に北大西洋条約機構(NATO)との関係性を重視していることから、ドイツとフランスに対する懸念を示している。
 また、日韓両国との同盟関係を軽視するのではないかとの報道があるが、それは現実的でない。フライツ氏、イェーツ氏両氏は、ディール・メーカー(交渉人)としてのトランプ氏の発言には誤解されやすい側面もあるが、反トランプ派による偏向報道、偽情報に惑わされず、日米同盟強化を重視しているトランプ氏の本心をしっかり見極める必要があると言う。
 
 米大統領選の行方と焦点となる国内・外交政策
 国境警備はアメリカにとって国家安全保障・国内治安上の重大な課題だが、バイデン政権によって国境警備政策が緩められたことにより、現在は何百万人もの不法滞在を許す最悪の情況となっている。トランプ氏は再選後直ちに南部国境を閉鎖し、犯罪者や違法薬物の売人、中国工作員のアメリカへの侵入を食い止めるだろうと話す。
 外交面ではバイデン政権の中東政策(特にイランに対する宥和政策)はトランプ支持者のみならず、同盟国イスラエルからも厳しい批判に晒されている。再選後は中東政策の抜本的改革がなされ、劇的な変化が期待される政策が打ち出されるだろうと言う。
 米中関係では、イェーツ氏が最近の台湾立法院での事件に触れ、「国民党内からも台湾の政党であるべきか、中国との統一を目指す政党であるべきか、という意見の衝突が見られる。日米は従来通りの政党であるべきとの姿勢を採る。それが共通の利害に繋がる」と述べた。
 また、対北朝鮮では、トランプ・金正恩首脳会談の成果として2022年まで長距離弾道ミサイルの発射実験を止める事に成功したことから、第二次政権発足後は金との個人外交を再開する可能性が高い。フライツ氏はトランプ氏に対して、米朝交渉再開の足枷となっている北朝鮮によるロシア支援中止を進言するつもりであると言う。
 
 第二次トランプ政権の閣僚候補達
 次期政権での閣僚入りが噂されているのはロバート・ライトハイザー氏(元通商代表)、ロバート・オブライエン氏(元国家安全保障問題担当大統領補佐官)、マイク・ポンペオ氏(元国務長官)、そして本日のスティーブ・イェーツ氏だ。一方、前政権時代に国防次官補代理を務めたエルブリッジ・コルビー氏は対中重視に傾いたことにより、トランプ氏の信任はなく、閣僚入りの可能性は低いとされる。
 
 世界で注目を集める米大統領選。「もしトラ」が「ほぼトラ」となり、それが現実となれば「アメリカ第一のアプローチ」が実践され、日米同盟もNATOも大きく後退し、安全保障に対する弱体化が進むのではないかとの分析が報道されているが、その解釈に大きな乖離があったことが明らかになった。国内外メディアによる「トランプ像」の本質を見極めるには、こうした米国に住む専門家の分析を直接聞けたことは有意義であった。
 日本は日本としての国益を追及し、日米で共有する同盟強化を進め、地域の安全保障と安定に万全の備えで臨んでいただきたい。
テーマ: 米前政権中枢が語る米大統領選の行方と日米同盟
講 師: フレッド・フライツ氏・スティーブ・イエーツ氏
日 時: 令和6年6月6日(金)14:00~16:00

第180回
日本とリトアニアの歴史的関係と両国の安全保障問題

  今回は、去る4月19日、駐日リトアニア大使館にオーレリウス・ジーカス大使を表敬訪問した事がきっかけとなり、是非「Chat」の講師をとお願いし、実現した。バルト3国の一番南に位置するリトアニアの豊かな森と6,000を超える湖、オレンジ色の屋根が続く美しい風景は、誰でも一度は行ってみたい国の1つであろう。

 しかしリトアニアはその地政学的位置からも想像されるように、辿って来た歴史は厳しく、そして複雑だ。日本は1919年1月、リトアニアを事実上の国家として承認し、1939年11月、「命のビザ」で知られる杉原千畝が領事代理としてカウナスに赴くも、ソ連の占領下に入ったため、翌年閉鎖された。そして、1991年1月、あの「血の日曜日事件」を経て、同年秋、ソ連からの独立が承認された。同時に日本・リトアニアの外交関係が復興し、自由・民主主義、法の支配、基本的人権の尊重など、価値観を共有する同志国としての交流を深めている。
 
 リトアニアには1253年にリトアニア大公国の初代国王としてミンダウガス王が即位した「建国記念日」に加え、1918年のリトアニア共和国としての最初の独立記念日、1990年のソ連からのリトアニア共和国独立回復記念日と1年に3回の国家主権に纏わる記念日がある。リトアニアはかつてユーラシア大陸の東西に広がる大国だった時代もあり、中でも一番誇りとしているのが14世紀頃の「リトアニア大公国」の時代である。リトアニア大公国は1569年にポーランドとルブリン同盟を結び、現在の約14倍に当たる面積を領有する大国となった。2020年にリトアニア、ポーランド、ウクライナ間で結成された地域連合「ルブリン・トライアングル」は、かつてのリトアニア・ポーランド同盟の再現とも言える。

 現在のリトアニアの外交政策は「ハリネズミ外交」と呼ばれている。自国を脅かす巨象のような大国に囲まれているリトアニアは、2004年にNATO加盟を果たした。91年の独立後も、常に国家防衛に注力し、ロシアがクリミア半島を占領(2014年)した翌年の2015年に、徴兵制を復活させた。
 また、それまでロシアに100%依存していたLNGは、ロシアがクリミアを獲った14年、国民の強い反対を押し切ってクライペダにLNGターミナルを建設した。同ターミナルの存在はウクライナ開戦後、リトアニアがロシア産LNG全面禁輸を達成する際に大きな貢献を果たした。風力・ソーラーなど再生可能エネルギーも活用し、30年までにエネルギー自給率100%を達成する予定だと言う。
「リトアニアは24時間365日続く緊張感の中に生きている。この事こそがリトアニアの生き残る道である」と述べた大使の言葉は、周辺国の脅威に晒されている日本の安全保障環境にあって、長い「平和ボケ」から覚醒できない我々日本人の胸を震わせ、大きな感動をもって受け止められた。「もし戦争が起こったら国のために戦うか」の問い(世界価値観調査)に、13.2%が「戦う」と答えた日本人の数字は世界最下位。これは戦後80年間の教育の賜物?であり、日本人の矜持を喪ってきた証と言えるだろう。

 研究者としての道を歩んで来られた大使は、平和な時代が続く限り、リトアニアは防衛よりも文化や教育に投資すべきであると考えていた。しかし、過去10年の世界の激変を目の当たりにするにつけ、防衛に対する投資の重要性を認識したと言う。リトアニアを取り巻く情勢で近年最も大きな変化はやはりウクライナ戦争である。リトアニアは世界最大規模のウクライナ支援国であるが、その根幹にあるのはリトアニア大公国がモンゴル帝国のヨーロッパ侵攻に対する防壁として機能した歴史だ。リトアニアの視点からすれば、現在のロシアはモンゴル帝国と同様の異質な侵略国であり、リトアニアは再びヨーロッパ文明の守護者としての役割を果たしたいという思いが強い。
 台湾を巡る情勢でもリトアニアの存在感は大きい。かつてのリトアニアは中国と港や鉄道の共同開発を検討するなど親中的な政策を採っていた。しかし、18年に中国がリトアニアにとって安全保障上の脅威であるという報告が為され、中国に代わって台湾との関係強化が進められた。20年には台湾の代表処がリトアニアに開設され、これに激怒した中国は在中リトアニア人外交官を全員追放した。24年現在も中国にはリトアニアの外交官は1人もいない。かつてリトアニアを支配した旧ソ連と同じ独裁主義国である中国はリトアニア人の間であまり好かれていない事から、今後、現在のリトアニアの対中政策が大きく転換する事は有り得ないとされている。

 人口約270万のリトアニアに、共産党は存在しない。「自分の国は自分で守る」「国家を危うくする干渉には耳を貸さない」を国家存続の第一に掲げ、大国からの誘惑を跳ねのけてきた。国民の強い国家観と愛国心は、凛として揺るがない。国家の矜持は国家の品格に繋がる。それは必ずしも領土の広さや人口、GDPに比例しないという事である。

 

テーマ: 日本とリトアニアの歴史的関係と両国の安全保障問題
講 師: オーレリウス・ジーカス氏(駐日リトアニア共和国特命全権大使)
日 時: 令和6年5月31日(金)14:00~16:00

第179回
ロシア・ウクライナ戦争の行方

 
 本日はロシアの内政・外交に詳しい名越建郎氏をお招きし、今後のロシア・ウクライナ戦争の行方について、お話いただいた。以下4つの点について簡単に記す。
 
(要点抜粋)
・モスクワ大型テロ(2024年3月22日)
 
 プーチンが大統領選挙で圧勝した3月17日。その5日後にテロが起きた。今回のテロはロシアで今世紀初めに頻発していたテロとは性質が全然違っていた。かつての主流だった自爆テロと違い、今回のテロでは犯人は最初から金で雇われており、逃亡を考えていた。
 
 ロシアの情報機関は反体制派や反戦グループの摘発に関してはプロだが、テロ対策には非常な不備があった。今回、テロを実行したIS-K(イスラム国ホラサン州)はSNSでプーチン政権を「イスラム教徒を弾圧している」と厳しく批判しており、テロの予兆を掴んだアメリカはロシアに事前通報していたが、プーチンはアメリカへの敵愾心・猜疑心から「アメリカによる挑発」として通報を無視した。IS-Kには、若者の人口が多いが仕事が無い中央アジアからの参加者も多い。また、ロシア国内でのイスラム教徒の増加も背景にあり、女性1人あたり4人の子供を産むためにロシア人との人口比率が逆転しつつある。プーチン曰く、犯行の背後でウクライナの情報機関が資金を提供し、犯人の逃走を手助けしたとして、ウクライナを批判している。また、フランスのマクロン大統領は次のテロの標的は7月に五輪を控えたパリになる可能性があると言っている。日本でのテロの可能性は低いが、ヨーロッパは要注意だ。
 
・プーチン5期目の動向
 プーチン政権はあと少しで在任30年の長期支配になり、20世紀以降、スターリンを抜いて最長在位のロシア指導者になる。ロシアは長期政権になると政治的な成果を重視する。プーチンが尊敬しているピョートル大帝・エカテリーナ女帝の時代には非常に戦争に強く、ロシアの領土が広がり、近代化が進んだ。プーチン政権も2030年代まで領土的な野心が続くと思う。
 
・岸田総理の外遊
 岸田総理は米国公式訪問(4/10)、フランス訪問(5/2-3、OECD閣僚理事会出席)、NATO首脳会議出席(7/9-11)など外遊が相次いでおり、外交で内政の現状を打破しようとしている。今のままでは次期総裁選で下野も考えられるが、ただし、外交成果は支持率回復には繋がりにくい。拉致被害者奪還くらいの成果があれば話は別と言える。
 
・ロシア・ウクライナ戦争の行方
 現在の弾薬投入量の差はウクライナ1: ロシア5であり、一時、米の9兆円ウクライナ軍事援助法案が凍結された事もあり、ウクライナ側の苦戦が報じられている。ロシアは一方で中国・北朝鮮との関係を強化しており、5月にはプーチンの中国訪問が予定されており、弾薬や軍服の供給を受けている北朝鮮への訪問もありえると噂されている。ただし、北製の弾薬は発射した途端に爆発するなど粗悪品も多く、軍需に完全依存している現在のロシア経済は戦争終結後の反動に耐えられないという見方も強い。
 
 日本を含めた西側諸国で、軍民両用(デュアルユース)技術や先端技術の軍事活用が謳われている中、そもそも粗悪品の弾薬すら外国に依存し、国内に西側レベルの先端産業を持たないロシアの勝利は無理筋なのかもしれない。
 
テーマ: ロシア・ウクライナ戦争の行方
講 師: 名越建郎氏(JFSS政策提言委員/拓殖大学大学院特任教授)
日 時: 令和6年4月5日(金)14:00~16:00

第178回
現在の米国事情と大統領選の行方

  長野禮子
 
 本日は米国の内政・外交に詳しい古森義久氏をお招きし、現在の米国事情と今年11月の米大統領選の行方について、お話いただいた。以下7つの点について簡単に記す。
 
《リベラルVS保守》
 米国のリベラルは80年代、レーガン政権の出現により崩れた。リベラル派と保守派の勢力図が変わった。それまではリベラルが強く、日米関係を研究していたのは民主党系のブルッキングス研究所くらいだった。当時の日本のマスコミも米国のリベラル派とうまくやっていたが、1980年の大統領選挙でそれが崩れた。
 当時、古森氏はニューヨーク・タイムズとCBSの選挙予測を見て、カーター氏が圧勝すると思っていたが、結果は、レーガン氏の地滑り的勝利だった。この時、日本が最も信頼してきた米メディアは、大統領選挙になると民主党にぴたっとくっつくことを身をもって体験した。
 米国のリベラリズムが大きく後退した理由の1つに、カーター政権の経済運営の失敗が挙げられる。外交面では、東西冷戦構造の中、相手に善意を期待する外交だった。一方のソ連は各地に進出。そうして起こったのがソ連のアフガン侵攻だった。この時初めてカーター氏は自らのソ連政策の誤りを認めた。この頃、日本の防衛予算はGDP比1%以内で良いとされていたが、アフガン侵攻以降は対日防衛政策も変わり始め、日本に防衛費の増額を求めるようになった。以降米国では保守主義が力を持つようになった。
 
《米リベラルと日本》
 日本側にも米民主党・リベラルのプリズムがあり、これが日本の主体だった。米国側で日本に目を向けて真面目に語ってくれるのは、ある時期までは、エドウィン・ライシャワー、ジェラルド・カーティス、エズラ・ヴォーゲルなど殆どが民主党リベラル派の人々ばかりだった。日本も民主党リベラルに共鳴した入江昭、本間長世、猿谷要など米国通として知られたリベラルの人々が多く、当時の日米交流は、文化、歴史などが重視された。日本文学の世界的権威で、晩年日本に帰化したドナルド・キーン氏も大変なリベラル派だった。
 ワシントンD.C.では、民主党リベラルがいうポリティカル・コレクトネスに同調することは正しいということになっているし、日本でも米民主党から出てくる情報は正しいという認識が今もある。
 
《不法入国者の問題》
 今のバイデン政権の内政で大きな問題は不法入国者に関する問題だ。トランプ政権が発足した時、米国の人口3億数千万のうち、不法入国者は既に1,100万人いたとされる。これ以上増やさないとしてトランプ氏は国境に壁を作ったが、バイデン氏は選挙の際、「移民・難民の国としての米国の伝統に反する」と厳しく批判した。従って、バイデン政権になってから、中南米のエルサルバドル、ニカラグア、ホンジュラス、ベネズエラなどから続々と移民が入ってきている。さらに中国、ロシア、トルコからも入ってくる。この不法入国者は今の米国政治で深刻な問題になっている。バイデン政権は摘発した不法入国者数の発表を拒んでいたが、最近、1会計年度で約270万人との統計を出した。
 メキシコとの国境を接しているテキサス州が最も不法移民の影響を受けているが、テキサス州知事は共和党保守派のアボット氏だ。国境に接してはいないが、フロリダ州のデサンテス知事も共和党だ。このような人たちがバイデン政権の移民政策、不法入国者対策に対して抗議している。この深刻な状況を米地上波テレビはなかなか報道しない。
 オバマ政権時に広まったサンクチュアリ・シティという都市あり、ここでは外国人への取り締まりを一切しないことになっている。ニューヨーク、ワシントンD.C.、ロサンゼルスもサンクチュアリ・シティになっているが、今、移民が増えすぎてニューヨーク市長は悲鳴を上げている。
 
《米大統領選挙とメディア》
 米大統領選挙は民主主義の象徴として長く展開される。マラソンとボクシングを同時にするような戦いだ。
 コロナ後にバイデン政権はインフレを経験したが、これは大きな政府か小さな政府かという経済政策問題が背景にある。つまり、民主党・リベラルは大きな政府で支出が増える、共和党・保守派は小さな政府で支出を抑えようとする。このような対立があるにせよ、米国の民主主義の枠組みはまだ健在であり、その枠組みの中で今熾烈な戦いが行われている。
 大統領選挙は簡単に言えば、長年続いてきた「保守対リベラルの争い」に尽きる。だが、米国の保守派にとって有利なニュースは日本にはなかなか伝わって来ない。米国の大手メディアのトランプ氏に関する報道も偏っている。ニューヨーク・タイムズ紙はトランプ氏を引きずり下ろそうと画策してきたが、一方で民主党べったりではないメディアもある。ウォールストリート・ジャーナルやFOXテレビは共和党支持であり、バイデン政権の負の部分を報道している。
 
《両陣営の支持層》
 バイデン氏を見ていると、失言、放言、虚言があまりにも多く、民主党の中にも不安視する声が上がっているが、これらも報道されないことが多い。いま囁かれている次の候補はミシェル・オバマ氏(オバマ元大統領の妻)だ。カマラ・ハリス副大統領の名前が挙がらないのは、彼女の不人気に拠る。
 民主党の岩盤支持層は、有権者の3分の1。共和党の岩盤支持層も有権者の3分の1。あとは浮動票3分の1がどちらにつくかで大統領選挙は決まる。
 両陣営の競合州では現在トランプ氏が数ポイントリードしている一方、トランプ氏に対する起訴は、トランプ支持者でない共和党の人々も認めておらず、バイデン政権がトランプ氏を引きずり下ろすための武器として使っているとして否定的だ。米議会下院の特別委員会でもこの問題を調査しており、この件に関して共和党は一致団結している。
 
《トランプ氏とNATO》
 日本のメディアはトランプ氏が当選したらNATOから撤退するというが、これには全く根拠がない。トランプ政権時の国家安全保障戦略と国家防衛戦略がトランプ氏の対外政策の公式版だが、ここにはNATO強化と日米同盟強化が謳われている。トランプ氏が批判したのは、NATO加盟国がオバマ政権時に約束した防衛予算GDP比2%を履行しなかったので、「履行しなければ米国は撤退するぞ」と言ったのである。「撤退」が一人歩きし、大きく報道されてしまった。
 
《トランプ氏と日本》
 トランプ政権下での日米関係は安倍総理との関係も含め、よかったとしか言いようがない。同盟関係強化は勿論、拉致問題解決にも理解を示し尽力した。トランプ氏が再選されれば米国は孤立主義に立ち世界の紛争に背を向けると言われているが、民主党の対中弱腰政策を転換させたのはトランプ政権である。
 
 現在の混沌とした世界情勢にあって、日本は米大統領選の結果に過剰に捉われることなく、米国とともに、自由と民主主義、基本的人権、法の支配を共有する国々との連携を深めていくことが重要であり、決して覇権・権威主義国家の暴走を許してはならない。
   今の段階で、バイデン氏、トランプ氏のどちらが良いか良くないかを論じることはおかしい気がすると古森氏は言う。
 
テーマ: 現在の米国事情と大統領選の行方
講 師: 古森義久氏(顧問・麗澤大学特別教授)
日 時: 令和6年1月30日(火)14:00~16:00

第177回
アジア太平洋の防衛に関するアメリカの見解

 長野禮子
 
 今回はグラント F・ニューシャム氏をお招きし、表記のテーマについてお話を伺った。
 以下、ニューシャム氏の発言について大きく3つの点を簡単に報告したい。
 
《米国内の問題》
 アジア地域における米国の軍事力は、30年前に比べてかなり縮小している。米国務省は「米国は世界中のどこでも対応可能」と言うが、既に30年前から2正面作戦を実行する力はない。現在、ウクライナやガザ・イスラエルだけでなく、ベネズエラなど中南米カリブ海諸国、ロシア、中国、イランなどとも問題を抱えており、全てに対応することはできない。
 また、経済、金融、政治、精神の面で大きな問題があり、国家の分断、内戦の可能性を否定できない。更に、バイデン政権は大統領を含め中国からの多額のカネが流入しているため、政策に集中できていない。日本も政治家のカネの問題があるが、米国とは桁が違い過ぎる。政治とビジネスの腐敗が深刻だ。
 
《米中関係》
 米国は、中国の覇権主義を抑止したいが、同時に中国ビジネスも重要というのが本音だ。財界は米政府に対して大きな影響力を持っている。米政府は対中政策で厳しい発言をするが、実態が伴っているとは言えない。これまで中国をファイナンスし、カネと技術を与えて来たのは米国だ。まさに自殺行為である。
 南シナ海での中国の行動を見誤り、米中対立が起きれば米国が負ける可能性も否定できない。皮肉にも、その技術の多くが米国のものだ。米国は対中ビジネスを重要視したために、技術を盗まれても中国を罰せず大目に見て来た。
 サンフランシスコで行われた米中首脳会談での合意の1つは、乱用が問題となっている鎮痛剤フェンタニルの中国からの流入に対処することだった。この薬物の乱用により、昨年は7万人、今年は既に7万人以上が死亡している。その多くが、軍に入隊可能な年齢である。これまでに亡くなった人は約50万人、普通に生活ができなくなっている人が20~30万人いると推定される。中国が止めようと思えばできる事だが、トランプ政権でさえ何もしてこなかった。こうしたことを考えると、米国がアジア太平洋のパートナー国を中国から守れるのか、甚だ疑問が残る。
 中国は政治戦(経済・金融・心理戦)を行っている。これに米国は負けている。米財界が米政界に圧力をかけていることから、米国が台湾有事に際し100%支援するかについて疑問である。バイデン大統領自身は台湾を守ると言ったが、彼のスタッフはそのようには考えていないようだ。フィリピンや台湾に対する米国の支援は言葉だけのものになっている。台湾やフィリピンを失えば、日米同盟が強固であってもアジア太平洋地域における米国の立場は弱体化する。日本は出来るだけ早く核兵器を持つ準備をすべきである。
 
《太平洋に進出する中国》
 米国は太平洋中央部の島国(マーシャル諸島、ミクロネシア、パラオ、ソロモン諸島など)に注意を払って来なかったため、中国の進出を許してしまった。中国は島国とのビジネスを手始めに影響力を強めていく。そのことで、米国離れが進んでいく。中国がこの地域の島嶼国を押さえると、オーストラリアが孤立してしまう。日本もそうなる可能性がある。
 オーストラリアの政界は左派・リベラルの影響が強い。中国の威圧には反対するが、同時に中国とのビジネスは重要と考えている。オーストラリアの軍事力は、米国のサポート役としてはよいが、自国を守るには十分とは言えない。AUKUSはよいことだが、肝心な潜水艦がいつ来るかわからない。日本から潜水艦を買っていればよかった。
 今米国にとってインドは非常に大切な国である。しかし、バイデン政権と民主党のエリート達はモディ首相に良い印象を抱いていない。ただ、15年前に比べると米印の軍事関係は良好である。一方、日印関係は良好である。更に促進、深化させるべきであろう。
 米国は政治戦の面では中国に負けているが、軍事面ではまだ力を持っている。あと2、3年はこの状況が続くだろう。しかしこの間、政治戦で負ければ、戦争が出来るかわからない。日本は独自の対策を立てた方がよいが、立案者がいない。これは米国が力になれるだろう。
 
 同盟国である米国の存在は日本にとって極めて大きい。しかし、氏の話を聞くと、現在の米国は、日本人の米国に対する過剰な期待や価値観を共有する最大の相手国としての信頼に足るものなのか、行き過ぎた米国依存は我が身を苦しめることだと気付く時なのか・・・。 
 周辺3ヵ国の動向や台湾有事に備え、日本の立ち位置をしっかり見つめ直し、長年の懸案である憲法改正を始めとする大改革に打って出なければ、この混迷の世紀を生き抜くことは難しい。氏の言葉にあったように、日本独自の取組が求められる。
 
テーマ: アジア太平洋の防衛に関するアメリカの見解
講 師: グラント F・ニューシャム 氏(上席研究員・元米海兵隊大佐)
日 時: 令和5年12月14日(木)14:00~16:00

第176回
村上政俊著『フィンランドの覚悟』から

長野禮子
 
 今回は、昨年夏、フィンランド国立タンペレ大学での在外研究を終えた村上政俊氏をお迎えし、フィンランドの歴史、文化、政治、地政学的問題、また日本との関わりについて、幅広くお話いただいた。
 フィンランドと言えば、サンタクロース、ムーミン、そして森と湖の美しい北欧の国として、その景色を思い描いてきた方も多いことだろう。そう、マリメッコ、イッタラ、アラビアといった食器も有名だ。ノキア、福祉、教育・・・と思いを致せば色々出て来る。
 隣接する大国ロシアとスウェーデンに翻弄されてきた歴史をもつフィンランドは、1917年に独立したまだ若い国家である。村上氏が今年上梓した『フィンランドの覚悟』(扶桑社新書)には、1904年、日露戦争勃発によりスウェーデン公使附陸軍武官となった明石元二郎や、オーランド諸島の帰属を巡り一案を投じた新渡戸稲造、ユダヤ人に「命のビザ」を発給した杉原千畝のこともフィンランドに足跡を残した先人として紹介されている。
 フィンランドでは、ロシアのウクライナ侵攻後に北大西洋条約機構(NATO)加盟支持が一気に急増し、今年4月、加盟を果たした。昨年5月、フィンランドとスウェーデンは足並みを揃えてNATO加盟を申請したが、スウェーデンはロシアとの長い国境(1,340km)を接するフィンランドとは脅威認識の違いがあった。フィンランドのNATO加盟により、ロシアの境界線1,200kmは倍増し、陸上国境を警戒するロシアの負担は増えることになった。
 今後スウェーデンのNATO加盟が実現すれば、バルト海沿岸は、ロシア領カリーニングラードを除いて全てNATO加盟国となり、バルト海は事実上のNATOの内海になる。バルト海でフィンランドはオーランド諸島、スウェーデンはコッドランド島を領有しているが、これらは有事では管制高地となる。これらの島々は海底ケーブルの陸揚げの拠点になっており、それらが切断されるとバルト三国が孤立してしまうため、NATOにとってもこの島々は重要である。
 また、フィンランドは「中立国」との認識があるが、実はかなり以前からそうではなく、スウェーデンとともに実質的にはNATO加盟国並みに行動してきた。アフガンやイラクなどへの派兵や、コソボ問題にもNATOと協力して関わってきた。フィンランドの「中立」は独立を維持するための「政策的中立」であり、冷戦終結後は欧州連合(EU)、欧州単一通貨ユーロに加盟し、ヨーロッパと一体化してきたため、民主的選挙が行われ、ロシアへの文化的な親近感も広がらなかった。
 人口550万人のフィンランドは冷戦後も徴兵制が維持され、18歳以上の男子には兵役の義務がある。28万人の軍隊を30日以内に動員できる態勢だという。予備役は90万人。有事になれば戦地へ駆けつける。「自分達の国は自分達で守る」を徹底して実践している。
 最近の世論調査によると、祖国防衛に対する意識は82%、日本は13.2%。この数字の差は何を意味するのか。
2020年、実に75年ぶりに東京のフィンランド大使館に国防武官が着任した。これは軍事、防衛分野における日本との協力を発展させたいという意識の表れである。
 ロシアを挟んだ隣国の隣国という位置関係にある日本とフィンランド。今回の村上氏の講演で、一気にフィンランドが身近に感じられた「Chat」であった。
 
テーマ: 村上政俊著『フィンランドの覚悟』から
講 師: 村上 政俊 氏(皇學館大学准教授)
日 時: 令和5年10月31日(火)14:00~16:00