日本はギリシャやスペインとは違う。この失われた20年でも日本人の勤勉性は衰えていない。であるのに日本人の生活はどうして落ち込む一方なのか。リーマン・ショック後にアメリカはドル札を刷り続けてドル安をテコに自動車産業や半導体産業をV字型に回復させてきた。そのドル安が進めば進むほど日本の製造業は困窮し、中国や韓国に出て行った。そこでの儲けで辛うじて国内産業を維持してきたが、中・韓との関係がこじれて日本の製造業は息の根を止められそうになっている。
中国の新体制も尖閣をめぐっては対日強硬路線をとり続けるだろう。頃を見計らって日中親善路線に切り換わるはずがない。体制内は腐敗、汚職が進んで、貧富の格差は開くばかりである。共産党大会でも公然と支配層に対する不満が表明された。中国の不況対策は国が何十兆円ものカネを政府企業に流すから、必然的に支配階級が潤うようになっている。富裕層は海外に子女を住まわせて送金し、輸出代金を誤魔化す。数年前の不動産バブル期には年間4000億ドル(32兆円)もの地下資金が動き、そのうち2500億ドル(20兆円)ものカネが海外に流出したと国際金融アナリストが分析している。これは中国のGDPの3%に当る。日本に引き当てれば15兆円に相当する。この腐敗構造は改まることがないから、人民の不満は膨満している。政府はその度に反日紛争を起こして国内を収めようとするだろう。実は韓国も同じ体質だ。韓国産業を押えているのは4つの大企業グループで、庶民の不満が絶えないから、大統領が竹島に上陸したりするのである。
こう見ると日本の再生の道は2つしかない。
1つは円安を作り出すことだ。各国の為替バランスが一定の時、ある国がお札を5割増刷すれば通貨は5割安くなる。岩田一政・元日銀副総裁(現日本経済研究センター理事長)は「50兆円基金設け円売れ」(朝日新聞11月8日)と主張している。為替操作だといわれないために「外貨を買うのは国際金融の安定のためだ」と説明する。「欧州金融安定化基金が発行する債券を買えばユーロの安定にもつながるし、円安になって日本経済も助かる。一石二鳥だ」という。実は安倍自民党総裁は内輪の会議でしばしば「円増刷論」を語っており、岩田構想とも符丁が合う。因みに日銀の白川総裁の任期は来年3月末までだ。
2つは東日本大震災で判明したことだが、半導体やマイコンの最高級の部品製造部門はまだ日本に残されている。レクサスエレクトニクスがその代表的企業だ。エルピーダメモリは倒産して外資に買われたが、レクサスはそこから部品を調達しているトヨタ、パナソニックなど日本企業が再建資金を出資して政府系の産業革新機構傘下で再建を進める方向になった。製造業を円安によって再生させれば、中韓と距離を置いて付き合える。この方針は7世紀の聖徳太子も19世紀の福沢諭吉も言っている。対等外交で且つ脱亜入欧が正しい外交路線なのだ。
(11月14日付静岡新聞『論壇』より転載)
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